大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
職場には「協力的な雰囲気の職場」と「非協力的な雰囲気の職場」が存在する。「非協力的な雰囲気の職場」を「協力的な雰囲気の職場」に変えるには、リーダーのコミュニケーションが重要な役割を果たすものである。
申し出に応じる部下、応じない部下
リーダーには部下に対して急な残業や休日出勤などを命じなければならないことがある。そのようなとき、リーダーからの予期せぬ申し出に「快く応じる部下」と「不満げな様子を見せる部下」「まったく応じない部下」がいるものである。
予期せぬ申し出に対して「不満げな様子を見せる部下」「まったく応じない部下」がいる職場には、共通して見られる特徴がある。「『適切な挨拶』が行われていない」ということである。
『適切な挨拶』とは次の「適切な挨拶の4条件」のすべてを満たす挨拶のことを指している。
《適切な挨拶の4条件》
相手の目を見て言葉を発すること。
笑顔で言葉を発すること。
相手に聞こえるように言葉を発すること。
正しい言葉で発すること。
『適切な挨拶』のない職場は“非協力的な社員”が増える
いろいろな組織で実際に挨拶が行われている様子を注意深く観察すると、次のような社員がいるのに気付くことがある。
相手を見ずに “そっぽを向いて” 挨拶をしている。
挨拶時の表情が “無表情” である。
声がとても “小さい”。
挨拶すべき相手から “遠く離れた場所” で言葉を発している。
「おはようございます」を「ざーっす」などと言っている。
いずれも、前述の「適切な挨拶の4条件」のうちの何かしらが欠落していることが分かる。“たかが挨拶” と思われるかもしれないが、その “たかが挨拶” が適切にできていない職場では、社員が「後ろ向き」「非協力的」「自己中心的」な考え方を持ちやすい傾向にある。
具体的には、
仕事に対するモチベーションの低い社員が多い。
組織運営に協力したがらない社員が多い。
権利ばかりを主張し、義務を果たさない社員が多い。
周囲に対する「気配り」「目配り」に欠ける社員が多い。
などの状況に陥っている職場が多い。その結果、社員間での好ましい連携が生まれにくく、「非協力的な職場」「雰囲気が沈滞した職場」になりやすいものである。
リーダーのコミュニケーション力が『適切な挨拶』を根付かせる
それでは、今まで『適切な挨拶』を行えていなかった職場を『適切な挨拶』ができる職場に変えるためには、どうすればよいだろうか。もちろん、『適切な挨拶』とは何かを全員が理解することが必要だが、『適切な挨拶』を職場に根付かせる最大のポイントは、部下に対してリーダーから先に『適切な挨拶』をし続けることである。
部下を持つ立場の方の中には、部下が挨拶をしたら自分も挨拶を返すという方が少なくないが、そのようなリーダーがマネジメントする職場で『適切な挨拶』が根付くことはほとんどない。そのようなリーダーの下では、部下が『適切な挨拶』をすぐにやらなくなってしまうからである。
反対に、リーダーが部下の目を見ながら笑顔で、部下に聞こえるように「おはよう!」と毎日言い続けたら、言われ続けた部下が『適切な挨拶』を返さないはずがない。『適切な挨拶』が職場に根付くかは、リーダーが “挨拶” というコミュニケーションにどのように取り組むか次第で成否が分かれるものである。
挨拶の文化が好ましい「企業風土」を作る
不思議なもので職場に「挨拶の文化」が根付き始めると、次第に社員一人ひとりの行動に変化が現れるようになる。
自分の仕事が終わればさっさと退社していた社員が「何かお手伝いしましょうか」と声を掛け始める、業務報告を怠りがちだった部下の報告・連絡・相談の頻度が増える、いつも突然休暇を申し出ていた社員が日にちに余裕をもって休暇日の打診をしてくるなど、指示をされなくても自ら “組織に対する好ましい行動” を起こし始める傾向が強い。その結果、「非協力的な雰囲気の職場」は徐々に「協力的な雰囲気の職場」に変化をするものである。
職場の雰囲気のことを「企業風土」ということがある。「企業風土」は組織にとってプラスにもマイナスにも作用するため、どのような「企業風土」を持つかで組織が発揮できるパフォーマンスレベルが大きく変わってしまう。組織の構成員が協力的に動くのも、不祥事に手を染めてしまうのも「企業風土」次第といえる。好ましい「企業風土」を築くための第一歩が『適切な挨拶』という日々のコミュニケーションにあることを、ぜひ憶えておきたいものである。
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