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「時間外労働の上限規制」とは 第2回

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


大企業に対しては2019年4月から、中小企業に対しては2020年4月から適用されている「時間外労働の上限規制」。第1回の前回は、「時間外労働の上限規制」の “基本的な仕組み” を解説した。第2回の今回は、「時間外労働の上限規制」の特別条項の考え方について、具体的に見てみよう。



「複数月の平均が1月当たり80時間以内」とは

初めに、前回説明をした「時間外労働の上限規制」の “基本的な仕組み” を振り返ってみよう。「時間外労働の上限規制」とは、次のようなルールである。


  • 原則の時間外労働の限度時間:月45時間、年360時間

  • 特別条項(臨時的で特別な事情があり、労使が合意をした場合):

  ① 時間外労働が年720時間以内

  ② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

  ③ 時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1月当たり80時間以内

   ※ ただし、年6カ月を限度


「時間外労働の上限規制」では、原則の限度時間を超えることが許される特別条項の仕組みが、非常に複雑になったという特徴がある。特に、特別条項の③にある「複数月の平均が1月当たり80時間以内」については、注意が必要である。


「複数月の平均が1月当たり80時間以内」とは、具体的には隣接する6カ月平均、同5カ月平均、同4カ月平均、同3カ月平均、同2カ月平均の全てが月80時間以内であることを要求している。


例えば、9月の時間外労働と休日労働の合計について、「複数月の平均が1月当たり80時間以内」の条件を満たしているかを見る場合には、

  • 隣接する6カ月平均 … 4月から9月の平均

  •   〃  5カ月平均 … 5月から9月の平均

  •   〃  4カ月平均 … 6月から9月の平均

  •   〃  3カ月平均 … 7月から9月の平均

  •   〃  2カ月平均 … 8月から9月の平均

の5つをチェックすることになる。図で見ると、次のようなイメージである。


「複数月の平均」は “5通りの計算” が必要

具体例で考えてみよう。例えば、特別条項の対象月である4月から9月の6カ月間について、時間外労働と休日労働の合計時間が次の事例1のとおりであったとする。


このケースで、9月の時間外労働と休日労働の合計時間である「90時間」が、特別条項の②および③の条件を満たしているかを考えてみよう。まず、②の「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」という条件を満たしていることは明らかである。


次に、特別条項の③「複数月の平均が1月当たり80時間以内」についてだが、9月の時間数「90時間」について複数月の平均を見る場合には、前述のとおり次の5通りの計算を行うことになる。

  • 隣接する6カ月平均 … 4月から9月の平均=(80+82+78+70+77+90)÷6=79.5

  •   〃  5カ月平均 … 5月から9月の平均=(82+78+70+77+90)÷5=79.4

  •   〃  4カ月平均 … 6月から9月の平均=(78+70+77+90)÷4=78.75

  •   〃  3カ月平均 … 7月から9月の平均=(70+77+90)÷3=79

  •   〃  2カ月平均 … 8月から9月の平均=(77+90)÷2=83.5

上記の計算結果を見ると、隣接する2カ月平均だけが「83.5」であり、80時間以内に収まっておらず、特別条項の③「複数月の平均が1月当たり80時間以内」という条件を満たしていない。②の条件は満たしていても③の条件は満たしていないので、法令上は問題のある状態といえる。


仮に、9月の時間外労働と休日労働の合計時間が「83時間」であれば、8月から9月の平均は(77+83)÷2=80となり、すべての複数月の平均が80時間以内に収まることになる。これが、特別条項の③を満たす考え方である。このような計算を全ての勤務月に対して行わなければならないため、非常に複雑かつ面倒な仕組みといえる。


月の基準をクリアしても「年720時間以内」が守れないケースも

次の例を見てみよう。事例2の表は4月から翌年3月の1年間について、時間外労働と休日労働の時間数をまとめたものである。奇数月は特別条項の対象月としている。


この事例について、特別条項の全ての条件を満たしているかを考えてみよう。まず、特別条項の②「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」についてだが、「合計A」欄を見ると100時間未満に収まっていることが分かる。次に特別条項の③「時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1月当たり80時間以内」については、特別条項の対象月が隔月のため、隣接するどの複数月の平均をとっても80時間をオーバーすることはない。


それでは、特別条項の①「時間外労働が年720時間以内」についてはどうだろうか。これは「時間外労働時間」の「合計B」欄を見れば分かるのだが、同欄は「730時間」であり、720時間以内の条件を満たしていないことが分かる。このように、②と③の条件は満たしていても、①の年間基準は満たしていないという現象も起こり得る。これが、特別条項の①「時間外労働が年720時間以内」の大きな特徴である。


以上のように、「時間外労働の上限規制」では、特別条項の条件をもれなく遵守することが必ずしも容易ではない。そこで次回は、法違反を起こさないための「実務上の管理ポイント」を紹介しよう。

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