大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
大企業に対しては2019年4月から、中小企業に対しては2020年4月から適用されている「時間外労働の上限規制」。第2回の前回は “特別条項の考え方” を具体例で解説した。第3回の今回は、法違反を起こさないための代表的な「実務上の管理ポイント」を紹介しよう。
「特別条項の3つの条件」への対応が鍵に
「時間外労働の上限規制」の特別条項では、次の3つの上限時間を全て満たすことが求められる。
① 時間外労働が年720時間以内
② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
③ 時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1月当たり80時間以内
そのため、本規制に対応するための最大のキーポイントは、「特別条項の3つの上限時間」にどのように対応するかになる。
上記の定めを見ると、②と③はいずれも1カ月の上限を示している。そのため、より上限時間が少ない③の基準を踏まえ、1カ月の時間外労働を「80時間以内」となるように社員の労働時間管理を行えばよいように思える。
しかしながら、「80時間以内」を基準に管理しても労働基準法に違反するケースがあるので、注意が必要である。
「80時間以内」で時間外労働を管理すると失敗することも
前回の 第2回で紹介した事例2のケースで考えてみよう。
上記事例2の表は4月から翌年3月の1年間について、時間外労働と休日労働の時間数をまとめたものである。奇数月は特別条項の対象月としている。
実は、この事例は1カ月の時間外労働を「80時間以内」になるように管理した企業の一例である。そのため、「時間外労働時間」欄を見ると、全ての月が「80時間以内」に収まっている。その結果、時間外労働と休日労働とを合わせた「合計A」欄は、全ての奇数月で「80時間以内」になったケースである。
このケースについて、特別条項の3つの条件を満たしているかを確認してみよう。まず、特別条項の②「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」は、「合計A」欄を見れば満たしていることが分かる。また、特別条項の③「時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1月当たり80時間以内」についても、特別条項の対象月が隔月のため、隣接するどの複数月の平均をとっても80時間を超えることはない。
ところが、1年間の時間外労働時間の合計は「合計B」欄にあるとおり「730時間」であり、特別条項の①「時間外労働が年720時間以内」の条件を満たしていない。つまり、本ケースは1カ月の時間外労働を「80時間以内」に収まるように管理しているにもかかわらず、法違反の状態となる。
時間外労働は1カ月「75時間以内」を原則に管理する
1カ月当たり「45時間」の時間外労働を6カ月行うと、時間外労働の合計は270時間(=45時間×6カ月)になる。このケースで1年間のうちの残りの6カ月を特別条項の対象月とする場合、特別条項の①「時間外労働が年720時間以内」の条件をクリアするには、残り6カ月の時間外労働の合計は450時間(=720時間-270時間)以内でなければならない。
残り6カ月の時間外労働を450時間以内にするには、その間の1カ月当たりの時間外労働の平均を75時間(=450時間÷6カ月)以内にする必要がある。そのため、1カ月の時間外労働を「80時間以内」を原則として管理したのでは、年間の時間外労働が720時間の上限を超えてしまうケースも出るわけである。
以上のとおり、時間外労働は1カ月当たり「75時間以内」を原則として管理することで、法違反が起こりづらくなる。これが「時間外労働の上限規制」に対応するための、実務上の大きなポイントとなる。
「法定休日」を明確化する
また、「時間外労働の上限規制」では、会社が定めた休日に社員を働かせる場合に、その労働が「休日労働と時間外労働のどちらに該当するのか」も重要になる。休日に社員を働かせた場合に、全て休日労働になるわけではないからである。
労働基準法では原則として、会社は社員に対して毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないと定めている。この “週に1日の休日” のこと「法定休日」といい、「法定休日」に労働させることを休日労働という。
例えば、毎週土曜日と日曜日を休日と定めている企業の場合、土曜日と日曜日のいずれか1日が労働基準法上の「法定休日」に該当し、もう一方は「法定休日」には該当しない。仮に、このケースで日曜日を「法定休日」と定めている場合には、土曜日に社員を働かせても、「法定休日」に労働させたわけではないので休日労働には当たらない。この場合は、月曜日から土曜日までに労働した時間の合計が40時間を超えた場合に、超えた時間を時間外労働としてカウントする必要がある。
このように、会社が定めた休日に社員を働かせる場合には、その日が「法定休日」か否かにより、休日労働と時間外労働のいずれに該当するかが異なることになる。そのため、「時間外労働の上限規制」への対応を適切に行うには、「法定休日」がいつかを明確にすることも実務上の大きなポイントといえる。
各社とも、「時間外労働の上限規制」の定めと趣旨をよく理解し、適切な対応を心掛けていただきたい。
Comentários