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「社会人1年目」の意義とは何か【第1回】

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


4月に社会人1年目のスタートを切った若者たちの新生活も、早いものですでに7カ月が経過した。ところで、社会人1年目は極めて重要な意義があるといわれる。その意義とは何だろうか。今回から2回にわたって見てみよう。



1年目に形作られる “2つのもの” とは

社会人1年目は極めて重要な意義があるといわれる。その後、何十年と続く職業生活を大きく左右する “あるもの” の基礎が形成される時期だからである。“あるもの” とは『職業観』と『習慣』である。


つまり、「仕事に対してどのような価値観を持つか」「大人としてどのような生活習慣を身に付けるか」は、社会に出た最初の1年目でおおかた決まってしまうということである。


一般的に、最初の1年目に身に付いた『職業観』や『習慣』は、その後大きく変わることは少ないものである。従って、最初の1年目で好ましい『職業観』や『習慣』を身に付ければ、職業人として一生の宝物になる。反対に、好ましくない『職業観』や『習慣』が身に付いてしまうと、それらは職業生活に生涯、マイナスの影響を与え続けることになる。


今回は、このうち『職業観』の形成について考えてみよう。


「頑張ることが “当たり前” 」の『職業観』はどんな職場でも有用

『職業観』にはいろいろある。たとえば、「仕事は頑張るものである」という『職業観』もあれば、「仕事はほどほどにこなせばよい」という『職業観』も存在する。


もしも、社会人1年目で「仕事は頑張るものである」という考え方が身に付いた場合、その若者にとっては「仕事は頑張ることが “当たり前” 」となる。反対に、「仕事はほどほどにこなせばよい」という姿勢が身に付いてしまうと、誤解を恐れずに言えば、その若者にとっては「仕事は頑張らないことが “当たり前” 」となってしまう。


「仕事は頑張ることが “当たり前” 」との価値観を持つ人材は、どのような業種・職種に身を置いても、貴重な人材として歓迎されるものである。そのような人材は組織への貢献度が高く、仕事のチャンスにも恵まれやすい。


しかしながら、「仕事は頑張らないことが “当たり前” 」との価値観を持つ人材は、そうはいかない。そのような人材は組織への貢献度が低くなりがちであり、得てして「職場に良くない影響を与える人材」「採用しなければよかった人材」と判断されるものである。


誰の下で仕事を覚えたかが若者の『職業観』を決定付ける

それでは、社会に出たての若者の『職業観』は、何に影響を受けて構築されるのだろうか。もちろん、生来の性格や家庭環境なども影響はしているだろうが、最も大きな影響を与えるのは、社会に出て初めて置かれた職場環境である。つまり、どのような『職業観』を持つ上司、先輩の下で仕事を覚えたかによるわけである。


「仕事は頑張ることが “当たり前” 」との『職業観』を持ち、それを実践している上司、先輩の下で初めての社会人生活を送れば、通常、若者も同じ『職業観』を持ちやすい。たとえば、「お客様により良い商品・サービスを提供するために頑張るのが、私たちの使命である」という強い意志の元で真摯に努力する上司、先輩に囲まれて育てば、その若者も仕事をする上で最初に考えることは「より良い商品・サービスを提供するにはどうしたらよいか」という点になる。


反対に、仕事はほどほどに、会社や同僚の愚痴ばかりを言っている上司、先輩の下で初めての社会人生活を送ると、通常、その若者も「いかに良い仕事をするか」を考える前に、会社や同僚の粗探しばかりをするようになってしまう。そのような人材は、かりに職場を移ったとしても、会社や同僚の粗探しを止めることができない。一旦、身に付いた仕事に対する姿勢は、容易には変えられないからである。そのような人材が、採用してよかったと思われるはずがない。


『職業観』は「組織適合性」を左右する

このように見てくると、社会人1年目でどのような職場環境に置かれるかは、若者がその後の長い職業生活を送る上で、「どのような職場でも有用な、歓迎される人材になるか」、それとも「どこに行っても職場に貢献しない、あまり歓迎されない人材になるか」の大きな “分岐点” であることが分かる。


つまり、社会に出た最初の1年間で、その人材の「組織適合性」の基礎が形作られてしまうわけである。これが、社会人1年目は極めて重要な意義があるといわれる1番目の理由である。その意味では、新卒1年目の社員を預かる部門の責任は、想像以上に大きい。


次代を担う優秀な人材を育成するためには、若者に好ましい『職業観』を身に付けさせられる職場環境が構築できているかがポイントになる。組織運営上は、この点を決して忘れないことが肝要といえよう。

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