大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
企業には問題やトラブルに直面したとき、「他人に責任がある。自分は悪くない」と考える「他責型社員」が殊の外、多いものである。このような人材の考え方や行動を改善するには、どうすればよいのだろうか。
自分は悪くないと考える「他責型社員」
新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言も解除され、酔ってくだを巻くサラリーマン諸氏を見かけることも、次第に増えてきたようである。サラリーマンがアルコールを飲みながら交わす会話といえば、相変わらず「ウチの上司は仕事ができない」「最近の若い奴は根性がない」など、職場の愚痴が定番のようである。
しかし、このような声を耳にするのは酒の席ばかりではない。業務時間中であっても「上司のミスを自分の責任にされた」「ウチの部下は出来が悪い」などの発言が頻繁に繰り返されている。
もちろん、発言の内容は事実かもしれない。しかしながら、多くの場合「上司のミスを自分の責任にされた」などの発言の裏側には、「だから私は悪くありません」という気持ちが隠れている。
このように、問題やトラブルに直面したとき、「他人に原因、責任がある。自分は悪くない」と考えるタイプの社員を「他責型社員」という。社内には殊の外、「他責型社員」が多いものである。
企業ではこのように「自分は悪くない」と思い込んでいる社員の考え方や行動を改善させ、うまく使っていかなければならない。どうすればこのような社員を変えることができるのであろうか。
『肯定的な表現』は受け入れやすい
相手の考え方や行動を改善させるには、『肯定的な表現』を活用することが効果的である。一般的に、相手の問題点が目に付くと、「○○をするのはよくない」「△△はダメだ」などと、頭に思い浮かべる。
この「よくない」「ダメだ」は、どちらも『否定的な表現』である。相手の問題点を改善させたいと思ったら、このように頭に思い浮かんだ『否定的な表現』をそのまま口に出すのではなく、『肯定的な表現』に変えてから口に出すとよい。
たとえば、ミーティングに遅刻した後輩に対して、「ミーティングの開始時刻に遅れたらダメじゃないか!」と言ったとする。「ダメじゃないか」は『否定的な表現』である。このようなときに、「ミーティングは開始時刻よりも少し早めに来たほうがいいよ」などと言うのが『肯定的な表現』に変えるということである。
文字にするとわずかな違いでしかないのだが、実際にその状況になったとき、口に出して言われた際の心への響き方には、非常に大きな違いがある。『否定的な表現』で言われた相手は、指摘を受け入れ “がたい” 気持ちになりやすく、『肯定的な表現』で言われた相手は、指摘を受け入れ “やすい” 気持ちになる傾向にある。
相手の心を閉ざす『否定的な表現』
『否定的な表現』は言われた相手の心を閉ざしてしまう。どんなに指摘されたことが正しいと理屈では理解できても、“感情的に“ 納得できないという状況に陥るのが人間である。
先ほどのケースで「ミーティングの開始時刻に遅れたらダメじゃないか!」と言うと、他責型社員であれば「前の打ち合わせが、先方の都合で長引いたんです(だから私は悪くありません)」などと言い訳をするであろう。指摘を受けた相手が言い訳を口にするのは、理屈では分かっていても “感情的“ に受け入れられない心理状態が表現された結果といえる。
これに対して、『肯定的な表現』で言われた場合には、感情的に指摘を受け入れやすく、「次は気をつけよう!」と自らの意思で思うことが、大いに期待できる。
他責型社員に『肯定的な表現』を
『肯定的な表現』が受け入れられやすい最大の理由は、相手を責めるような言い回しにならないことにある。
「ミーティングの開始時刻に遅れたらダメじゃないか!」は相手を責めているように聞こえる表現だが、「ミーティングは開始時刻よりも少し早めに来たほうがいいよ」は、必ずしも責めているようには聞こえない。それどころか、「○○したほうが、あなたにとって得ですよ」というニュアンスが含まれた表現になっている。
業務上の必要性があるとしても、他人の考え方や行動を変えるのは容易ではない。まして、「他責型社員」であればなおさらである。『肯定的な表現』を辛抱強く、継続して使うことが大切である。
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