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「行動基準」の伝え方

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


どのような組織にも守るべき「行動基準」が存在する。組織をあるべき姿に保つためには必要不可欠だからである。ところが、「行動基準」を全ての組織メンバーに徹底することほど困難なことはない。どうすれば「行動基準」は組織に浸透するのだろうか。



「行動基準」を守らない社員たち

組織目標を達成するために必要となる行動上の具体的なルールを「行動基準」などと言う。たとえば、社員に守秘義務を課す企業の中には、「社外では業務の話を一切しない」「内部で見聞きしたことを外で話さない」などの「行動基準」を設けているケースがある。


ところが、そのような企業で「社外では業務の話を一切しない」などのルールが社員に徹底されているかといえば、必ずしもそうとは限らない。「通勤途上で同僚と仕事の話をする社員」「社内で見聞きしたことを自宅で家族に話す社員」などが、少なからず存在するものである。「なぜ、ウチの社員はルールが守れないのか」というリーダーの嘆きを聞くこともしばしばである。


多くの企業は、「行動基準」に関する指導を入社時の研修の際に実施する。しかしその後は、不祥事などが発生しない限り、「行動基準」の継続的な教育指導は行わない企業が多いようである。また、社内に「行動基準」を明記したポスターを掲示する企業も多い。しかしながら、求められる行動を社員がいつでも目にする環境が用意されていても、日々の業務の中で社員がポスターを見て自身の行動を振り返ることはあまりないようである。


「行動基準」を遵守するのは社員にとって簡単なことではない。守るべき事項が相応の努力を伴う行為であればなおさらである。たとえば、前述の「社外では業務の話を一切しない」というルールは、「自分の話を聞いてほしい」という、人間に備わる基本的な性質に反する決まり事とも言え、かなりの自覚と努力がなければ遂行は困難である。そのため、入社時に説明した後はポスターで注意喚起をする程度の取り組みではルールを守れず、“好ましくない行動” に走る社員が出てしまうものである。


「行動基準」はリーダー自身の言葉で繰り返し伝える

組織メンバーに遵守を求める「行動基準」は、1度や2度、伝えただけで全てのメンバーが完全に守ることなど、決してあり得ない。何度も何度も繰り返し指導することが、どうしても必要になる。「社外では業務の話を一切しない」などのように、守るためにはかなりの自覚と努力が必要な基準の場合には、入社時の研修で指導した後も、毎日、毎日、しつこいくらいに注意喚起をしてはじめて、組織メンバーに「行動基準」を踏まえた“好ましい行動”が定着するのである。


また、「行動基準」の浸透具合は、誰が指導するかによっても差異が発生する。最も効果が高いのは、リーダー本人の口から直接、組織メンバーに伝える方法である。これに対し、先輩社員に後輩社員を指導させるというやり方は教育指導が形骸化するケースがあり、教育効果が実現しにくいようである。


たとえば、「社外では業務の話を一切しない」など、守ることが容易ではないルールについて先輩社員から後輩社員に伝えるという方法は、先輩社員が真にその意義と重要性を理解し、後輩社員の心を揺り動かすような伝え方ができないと、高い教育効果は発揮されない。単に研修マニュアルを読み上げるだけの形式的な説明では、後輩社員の行動変容に結び付くことはない。


相手の心を揺り動かすような伝え方。このような伝え方は、リーダーが最もできる可能性が高い。したがって、事情が許す限り、極力、リーダーが自分自身の言葉で「行動基準」を伝えることが、組織メンバーの“好ましい行動”を引き出すポイントになる。


もしも、「なぜ、ウチの社員はルールが守れないのか」という疑問を感じることがあるのであれば、誰がどのような頻度で「行動基準」を伝えているのかをぜひ確認してほしい。その結果、社員が “好ましい行動” を取れていない原因が、リーダーである自分自身にあることに気づくこともあるかもしれない。

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