大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
現在、多くの企業が組織運営上、コンプライアンスに重きを置き、社員教育の必須項目の一つとしている。それにもかかわらず、企業のコンプライアンス違反が報じられない日はない。一体、それはなぜだろうか。
コンプライアンスを「法令遵守」とだけ捉えると、違反はなくならない
コンプライアンスは「法令遵守」と訳されることが多い。そのため、社員教育の現場では、コンプライアンスを「企業は法律を守ることが大切である」というような意味合いで指導することが多いようである。
しかしながら、企業経営上求められるコンプライアンスは、一般的なコンプライアンスの概念とは必ずしも一致しない。この点を社員に対して指導できていない企業が、非常に多い印象を受ける。
企業がコンプライアンスを「法令遵守」とだけ定義している場合、「法令に違反しない行為は、企業運営上、問題のない行為である」というメッセージを、企業側が社員に発していることになる。これは企業に求められるコンプライアンスとは、似て非なる考え方である。仮に、直接的な法令違反には当たらない行為であったとしても、「倫理にもとる行動は、決してとってはならない」とするのが、企業に求められるコンプライアンスの姿だからである。
このような事情から、コンプライアンス違反の発生は「企業側がコンプライアンスをどのように定義しているか」に依存する傾向にある。コンプライアンスを「法令などを守ることはもとより、倫理的な行動までもが厳しく求められること」と定義して指導することが真のコンプライアンス教育であり、これを怠っていると、コンプライアンス違反は起こりやすくなるものである。
「倫理的行動」を求めても発生するコンプライアンス違反
企業によっては「倫理的行動をとること」までも含めてコンプライアンスと捉え、組織メンバーに指導しているケースもある。
ところが、そのような企業でコンプライアンス違反が起こらないかといえば、残念ながら必ずしもそうとはいえない。倫理的行動を行動基準として社員に課しているような企業でも、倫理にもとる行動をとるコンプライアンス違反行為が発生することがある。
このような現象が起こる原因はさまざまだが、ひとつの理由として、企業が社員に対し、倫理性の判断基準を明確に示せていないという点が挙げられよう。
「倫理的」とは極めて抽象的な概念である。そのため、社員に倫理的行動を要求する際には、「倫理的行動とは、具体的にはどのような行動なのか」「行動が倫理的かどうかは、何を基準に判断すればよいのか」までがハッキリと示せている必要がある。
この点が明確になっていないと、社員に倫理的行動を求めているにもかかわらず、コンプライアンス違反行為が発生するなどの現象が起こることになる。
倫理的行動の判断基準は「第三者視点」
企業コンプライアンスの概念で問われる倫理的行動の判断基準は、それほど難しいものではない。
企業や社員がとる行動が倫理的かを見極めるためには、その行動について「お客様はどう思うか」「一般市民の皆様はどう思うか」という視点で判断すればよいのである。どんなに企業側に有利な行動だとしても、お客様や一般市民の方々が「そんなことはおかしい」と考えるような行動であれば、倫理的に問題があると判断することができるものである。
つまり、倫理的な行動をとるためには、「第三者視点」で意思決定をすることが必要となる。企業コンプライアンスの本質とは、「第三者視点」を疎かにしないことといえよう。
ただし、これが必ずしも容易ではない。往々にして、「会社を守るため」「雇用を維持するため」「本社の指示に逆らえないから」などの理由で、倫理にもとる行動をとってしまいがちである。
社員のこのような意思決定パターンを修正するためには、時間を掛けて繰り返しコンプライアンス教育を実施することが大切になる。皆の心に響くように、「第三者視点」の重要性を根気強く説き続けることが、どうしても必要なのである。
あなたの職場には、「たとえ会社のためになったとしても、倫理にもとる行動は決してとってはいけない」という強い意思を持つ社員は、どのくらいいるだろうか。
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