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“バツイチ社長” はどんな年金をもらうのか 

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


現在、わが国では3組に1組の割合で離婚が成立しているという(令和元年人口動態統計月報年計(概数)の概況/厚生労働省)。今や、離婚は他人事ではない。ところで、企業・組織をマネジメントする経営者が離婚を経験している場合、老後の年金に何か影響はあるのだろうか。



離婚をしても年金に影響がない個人オーナー

職場を法人化していない個人オーナーと、法人化された職場を率いる代表取締役とでは、加入する公的年金制度の種類が異なる。そのため、離婚が年金に与える影響も、個人オーナーと法人の代表取締役とでは同じではない。


初めに、職場を法人化していない個人オーナーの場合には、公的年金制度は国民年金に加入をすることになる。この場合、老後は国民年金の制度から老齢基礎年金を受け取るが、この年金は離婚をしても、当初の予定どおりの金額を受け取ることが可能である。


従って、個人オーナーの場合には、仮に離婚をするような事態に陥っても、そのことが老後の年金の受け取り額に影響を及ぼすことはない。


ところが、法人化された職場を率いる代表取締役の場合には、そうはいかない。なぜならば、法人の代表取締役が受け取る老後の年金は、離婚をすると減額されるケースがあるからである。


法人の代表取締役の年金は「年金分割制度」により減額も

法人化された職場を率いる代表取締役の場合には、公的年金制度は国民年金と厚生年金の両方の制度に同時加入するのが原則である。この場合、老後は国民年金の制度からは老齢基礎年金を、厚生年金の制度からは老齢厚生年金を受け取ることになる。


法人の代表取締役が離婚をした場合、老齢基礎年金は前述のとおり当初の予定どおりの金額を受け取ることが可能である。しかしながら、老齢厚生年金については離婚時の年金分割制度の対象となり、減額される可能性がある。


離婚時の年金分割制度とは、離婚により発生する男女間の “年金受取額の格差” を是正するために設けられている制度で、平成19年4月に開始された合意分割制度と、平成20年4月に開始された3号分割制度の2つの仕組みで構成されている。具体的には、当事者からの申し出により、厚生年金加入中に企業から受け取った「給料・賞与の記録」を元夫婦間で分け合うのが、この仕組みの特徴である。つまり、経営者である夫の「給料・賞与の記録」の一部が、離婚により元妻のものになってしまうわけである。


この制度では、最大で自身の「給料・賞与の記録」の半分が、離婚した元パートナーのものになる可能性がある。例えば、結婚後に月額50万円の役員報酬で20年間勤務した経営者がいるとする。この場合には年金分割により、あたかも月額25万円の役員報酬で20年間勤務したかのような取り扱いが行われてしまうこともあるわけである。残りの記録は、全て元妻の年金記録に振り替えられてしまう。


将来、受け取る老齢厚生年金の金額は、厚生年金の「給料・賞与の記録」の数字が大きいほど多くなる。そのため、別れた妻に記録の一部を分け与えた夫は、離婚をしなかった場合と比較して少ない年金しか受け取ることができなくなる。反対に、別れた夫から記録の一部をもらった妻は、将来の年金額が当初の予定よりも多くなるわけである。


離婚による年金損失は数百万円?

具体例で考えてみよう。


厚生労働省が昨年12月に発表した「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和元年度に離婚時の年金分割制度により年金額が減額された人の平均年金額は、次のとおりである。


  • 減額前 … 143,162円/月

  • 減額後 … 114,025円/月


1カ月当たり29,137円の減額であり、1年間に換算すれば、年金分割により約35万円の収入減ということになる。


現在、65歳男性の平均余命は19.83年なので(令和元年簡易生命表の概況/厚生労働省)、65歳から年金受給を始めた男性は平均で20年程度、年金を受け取り続けることになる。この間、仮に年金分割で1年間に35万円減額された年金を受け取り続けたとすると、生涯で700万円もの年金収入の損失を被る結果となる。


以上のように、離婚は老後に受け取れる年金額に、思いのほか大きな痛手を与えることになる。社長業をリタイアした後には年金収入が家計の柱になるであろうことを考えると、これは決して侮れない事実である。社長業に邁進するのも結構だが、「円満な家庭生活、良好な夫婦生活があってこその社長業である」という点も、忘れないほうがよさそうである。

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