リーダーの不正行為指示と不正のトライアングル理論

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


皆さんは、1年ほど前に大学スポーツの名門校に所属する選手が試合中に悪質な反則行為を行い、大きな社会問題となったことを憶えているだろうか。悪質な反則行為が監督の指示によるものであったことを、複数の内部関係者が告発した問題である。リーダーによる不正行為の指示はなぜ起こるのだろうか。



不正行為は『機会』『動機』『正当化』が揃うと起こる

平成30年5月上旬、関東のとある大学のアメリカンフットボール部の選手が、他大学との定期戦で重大な反則行為を行った。選手生命にかかわる大事故になりかねない、悪質極まりない傷害行為である。ところが、この不祥事には反則行為自体よりも大きな問題が内在している。それは反則行為を行うよう同大学の監督が指示をしていた可能性がある点である。


不正行為が実行に移される仕組みについては、米国の犯罪学者であるD.R.クレッシーの「不正のトライアングル理論」が有名である。この考え方によると不正行為は、

  • 不正を行える『機会』があること

  • 不正を行う『動機』があること

  • 不正行為を『正当な行為』と考える口実があること

という3つの要素が揃った時に発生リスクが高まるのだという。それでは、1年前に発生した大学スポーツにおける傷害行為ではどうだろうか。


不正を行える『機会』がある

アメリカンフットボールはサッカーやラグビーなどと異なり、1プレーが終わるたびにプレーが中断され、次のプレーは常に静止状態から始まる。そのため、1プレーごとに緻密な作戦が立案され、作戦に応じた正確な動きが全ての選手に求められるという特徴がある。このように戦術性・戦略性の高いスポーツでは、選手に対する監督の指示は絶対となる。


つまり、選手が監督の指示以外の動きを行うことは考えられないのだという。ということは、監督が選手に不正行為を行わせようと思えばそのような指示が可能であり、なおかつ選手はその指示に従わざるを得ないという、不正を行える『機会』が存在していたことになる。


不正を行う『動機』がある

今回、問題を起こした大学はアメリカンフットボールの名門校として非常に有名であり、大学アメフト界の東の雄といわれている。80年代には映画のモデルに取り上げられるなど、大学スポーツ界では稀有な存在である。対する被害側の大学は大学アメフト界の西の雄といわれ、両大学は長年ライバル関係でしのぎを削ってきた。


また、今回問題を起こした大学は90年代にリーグ最下位になるなど、伝統校であるにもかかわらず戦績が大きく低迷した苦い経験も持ち合わせている。このような背景事情から「どうしても勝ちたい!」という極めて強い『動機』が生まれた可能性がある。


不正行為を『正当な行為』と考える口実がある

試合後、今回、問題を起こした大学の監督は選手の悪質な反則行為に対して「あれぐらいやっていかないと勝てない」という趣旨の発言をしたという。この発言からは「勝つためなのだから構わない」という、不正行為を『正当化』する口実が存在していたことが見て取れるものである。


このように、今回の大学スポーツにおける悪質な反則行為問題は、不正のトライアングル理論のとおり、「不正を行える『機会』」「不正を行う『動機』」「不正行為を『正当化』する口実」の3点が揃って発生したとも考えられる。つまり、起こるべくして起こった傷害行為といえるわけである。


『機会』『動機』『正当化』の各視点で不正抑止を

それでは、不正行為の発生を抑えるにはどうしたらよいのだろうか。そのためには、不正のトライアングル理論で不正行為発生の要因とされている3つの各視点からアプローチすることが重要である。つまり、不正行為を発生させないためには、

  • 不正を行える『機会』を与えないためにはどうすべきか。

  • 不正を行う『動機』を与えないためにはどうすべきか。

  • 不正行為を『正当化』する口実を与えないためにはどうすべきか。

のそれぞれについて打ち手を考えることが必要になる。


たとえば、今回の問題であれば、不正を行える『機会』を与えないために「監督の指示は絶対である」という内部環境を根本的に見直すなどの必要があるかもしれない。問題を解決し再発を防止するためには、「監督の指示が絶対なのは当たり前である」という固定概念を払拭し、聖域を設けず、ゼロベースで不正抑止に取り組むことが重要であろう。

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