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中途採用の現場から見る「新社会人教育」の重要性

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


中途採用者の中には「採用してよかった」と思う人材と「採用しなければよかった」と思う人材がいるものである。両者の違いは何に起因するのだろうか。



「社会人にふさわしい思考・行動」ができない中途採用者

現在、さまざま必要性から中途採用者を雇用する企業が多い。しかしながら、雇用した中途採用者に次のような現象が見られることがある。

  • 時間を守らない。

  • 挨拶ができない。

  • 職場のルールに従わない。

  • 同じ注意を何度も受ける。

  • 報告、連絡、相談ができない。

  • 協調性に欠ける。

  • 責任感が希薄である。


上記の項目はいずれも社会人として不適切な行動である。学校を卒業したばかりの新入社員ならいざ知らず、企業での就業経験を持つ中途採用者になぜ社会人として不適切な行動が見られるのだろうか。さまざまな理由が考えられるが、大きな理由の一つに学生生活から社会人生活に移行する段階で、適切な「新社会人教育」を受けていない可能性が挙げられる。


新卒者に対して各企業では、新入社員研修の一環で社会人としての基本的な知識・意識・マナーを指導する「新社会人教育」を行うことが多い。「新社会人教育」によって多くの若者は、

  • 時間に遅れないよう、早目に行動すること。

  • 誰に対してもキチンと挨拶をすること。

  • 職場のルールを守ること。

  • 同じ失敗を繰り返さないための工夫と努力が必要なこと。

  • 報告、連絡、相談を怠ってはいけないこと。

  • 他者との協調性を保つ必要があること。

  • 仕事に責任感を持たなければいけないこと。

など、数多くの『社会人の基礎』を学ぶことになる。「新社会人教育」はつい先日まで学生であった若者が『社会人の基礎』を教わることにより、社会に出た厳しさや責任の大きさを初めて実感する過程でもある。


社会人になった最初の時点でこのような教育を受け、教育内容と矛盾しない職場環境で社会人生活を歩んだ場合、その人材には上記のような『社会人の基礎』が “当たり前” のこととして心と体に染み付くものである。そのため、仮に新しい職場に移ったとしても、社会人としての好ましい思考・行動が継続され、採用した企業からは「採用してよかった人材」との評価を受けやすくなる。


「新社会人教育」が “職場適正” の高い人材を作る

しかしながら、「卒業後、新社会人教育が十分に行われない企業に就職した」「卒業後、定職に就かずにアルバイト生活をしていた」などの中途採用者の場合には、本人が好むと好まざるとにかかわらず、社会人としての好ましい行動がとれず、社会人として当たり前の思考ができないケースが少なくない。その結果、「採用しなければよかった人材」との評価を受けやすくなる傾向にある。また、「職場環境が教育内容と矛盾する企業で勤務した」「職業人生活から遠ざかって久しい」などの中途採用者の場合も同様のようである。


多くの中途採用者を見てみると、採用時点で「社会人に求められる基本的な行動・考え方」が身に付いていない中途採用者に対し、採用後に新たに「社会人に求められる基本的な行動・考え方」を身に付けさせるのは容易ではない。たいへん残念なことだが、そのような人材に対してどんなに “好ましい社会人” になるための教育を施しても、全く改善されないケースさえ少なくないのが現状である。


学生生活終了後、「社会人に求められる基本的な行動・考え方」とは無縁の生活を長く送れば送るほど、その人物の思考や行動は変えようがなくなってしまうように感じる。「鉄は熱いうちに打て」の言葉どおり、初めて社会人になったときに適切な「新社会人教育」を受け、教育内容と矛盾しない職場環境で日々を過ごせるかが、“職場適正” の高い人材になれるかを決定付ける極めて重要なポイントであろうと実感することしきりである。


中途で採用する人材が「好ましい人材」「好ましくない人材」のどちらなのかを採用前に見定めるのは容易ではないが、せめて自社を退職する人材は、他社に移っても「採用してよかった人材」との評価を受けたいものである。多くの企業が新卒者への「新社会人教育」を適切に行えれば、わが国の労働市場も今以上に活性化するのではないだろうか。

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