老後の年金を2倍にできる!? 企業経営者が利用を検討したい「2022年4月からの年金の繰下げ受給制度」

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


法人の代表取締役が加入する厚生年金の老後の年金は、年金の加入記録に基づいて金額が決定されるのが原則である。ところが、2022年4月からは法改正により、加入記録に基づく年金額を2倍近くに増額させて受け取ることも可能になったという。それは一体、どのような仕組みなのだろうか。



「加入記録に基づいて算出された年金額」よりも多くもらう方法がある

企業経営が常に順風満帆というケースは、決して多くない。業績悪化に伴う役員報酬の引き下げなどを経験した経営者も少なくないであろう。実は、そのような状況は、将来受け取る年金額を減額させる要因にもなる。


厚生年金の老後の年金は、年金の加入記録に基づいて金額が算出される。具体的には、「年金制度に加入した期間の長さ」と「在職中の給与額の高さ」の2点に応じて額が決まることになっている。そのため、役員報酬の引き下げは単にその時点の収入が減るだけでなく、将来の年金の減額をも意味する事態なのである。その後、どんなに受け取る報酬額を引き上げたとしても、一旦、年金の加入記録に刻まれた役員報酬引き下げの事実が消えることはない。


ところが、仮にそのような事態に陥ったとしても、減ってしまった年金額を元に戻せる手段が制度上、存在する。年金の受け取り開始時期を変更することである。


現在、厚生年金の老後の年金は、65歳から受け取り始めることを原則としている。しかしながら、年金をもらい始める年齢は、個人の意思で変更することが認められており、受け取りを65歳よりも遅くすると、その分、年金額が増額される仕組みがある。このような仕組みを年金の「繰下げ受給」と呼び、「繰下げ受給」によって年金を受け取ることを「年金を繰り下げる」と表現する。


「繰下げ受給」を利用すれば、加入記録に基づいて算出された金額よりも多い年金を受け取ることができる。その結果、役員報酬の引き下げに伴って少なくなった年金額をカバーすることも、十分に可能なのである。


最大84%も年金を増やせる2022年度からの「繰下げ受給」

実は、年金の繰下げ受給の仕組みは、2022年4月から大きくリニューアルされている。


それ以前の繰下げ受給の制度では、65歳から受け取る年金を66歳から70歳の間で、1カ月単位で受け取り開始を遅らせることができ、受け取りを1カ月遅くするごとに年金額は0.7%増額された。そのため、最大で受け取りを5年間遅くして70歳から受け取ることにすれば、年金額は42%(=0.7%×12カ月×5年)増額された。


例えば、65歳の時点の年金額が100万円であれば、受け取り開始を70歳にすることにより、年間で142万円(=100万円+100万円×42%)の年金を受け取れたのである。


ところが、法改正によって2022年4月からは、繰下げ受給ができる年齢の上限が5歳延びて75歳に引き上げられ、繰下げの最長期間が5年間から10年間に延長されることになった。そのため、2022年度からは、年金の受け取りを10年間遅らせて75歳から繰り下げてもらうことにすると、年金額が84%(=0.7%×12カ月×10年)も増額されることになった。


仮に、65歳の時点の年金額が100万円であれば、75歳から受け取ることにすると、184万円(=100万円+100万円×84%)を受け取れる計算になる。つまり、2022年度から施行された繰下げ受給を活用すれば、加入記録に基づいて算出された金額の2倍近くの年金を受け取れるわけである。


経営の低迷が年金収入に与える影響は「年金の繰下げ」で挽回を

厚生年金の老後の年金額は、「年金制度に加入した期間の長さ」と「在職中の給与額の高さ」の2点に応じて額が決まる。従って、老後に受け取れる年金額は、自身の職業人人生を映し出す鏡のような存在と言えよう。そのため、自身の職業人人生に落ち込んだ期間などが存在すれば、その分、年金額も落ち込んでしまう。


人生をやり直すことはできない。しかしながら、それに伴う年金額の落ち込みは、繰下げ受給の仕組みを活用すれば事後にカバーが可能である。


経営者には定年退職が存在しない。そのため、一般従業員と異なり、その気さえあればかなり高齢になっても、社長業による労働の対価を受け取ることができよう。労働の対価を受け取れれば、その分、年金の受け取りを先に延ばすことも可能になる。その意味では、75歳まで年金を繰り下げられる2022年度からの繰下げ受給の法改正は、経営者の皆さんにとって利用価値のある制度と言えよう。


ただし、繰下げ受給には、利用上の制約や留意点が少なくない。「利用対象者に制限がある」「年金の受け取り期間が短縮される」「役員報酬が高額だと年金の増額効果が限定的になる」など、利用に当たり理解しておかなければならない事項が複数存在する。


しかしながら、もしも自身の職業人人生に順風満帆とは言えない時期があり、悔恨の情などがあるのであれば、リニューアルされた繰下げ受給を利用するのも一つの方法ではないだろうか。


《参 考》

厚生労働省ホームページ:年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました

日本年金機構ホームページ:年金の繰下げ受給