大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
現在、入社したての若い社員が、短期間で会社を辞めてしまう傾向にあるという。ところが、会社を辞めた若手社員が転職先でイキイキと働いているかといえば、必ずしもそうとはいえないようである。一体、それはなぜだろうか。
「職場に不満がある」という問題は、転職では解決できない
学卒新入社員が「職場に不満がある」という理由で転職するケースは少なくない。令和2年10月30日に厚生労働省が発表した「新規学卒者の離職状況」によると、平成29年3月に卒業した学卒新入社員のうち、就職後3年以内に離職した割合は大卒者が32.8%、短大等卒者に至っては43.0%に及んでいる状況である。理由は「思っていた仕事と違う」「仕事が厳しい」「人間関係が悪い」など、さまざまなようである。
ところが、このような若手社員が転職先でもまた職場に不満を抱くというのは、よくある話である。「まだ、前職のほうがましだった」という声を聞くことさえあり、再度の転職に至るケースも少なくない。なかには、転職を頻繁に繰り返すようになる若者、定職に就かなくなる若者などもいるようである。
職場に不満を持って転職した若手社員は、新しい環境でも「職場の不満点」に過敏になりがちである。「前職で感じたような思いは、二度としたくない」という気持ちから、そのような状況になるのであろう。
しかしながら、世の中に完璧な会社など、そうそう存在するものではない。ほとんどの組織が、多かれ少なかれ課題・問題を抱えているものである。そのため、職場に不満を感じて転職した若手社員は、どのような職場に移ったとしても何かしらの問題を発見することとなり、新たな不満を抱くことが多くなる。そのため、転職したにもかかわらず気持ちよく働くことができず、ケースによっては転職を頻繁に繰り返すようになってしまうのである。
このように、転職という行為は「職場に不満がある」という問題の解決手段にはなりづらいものである。そのため、職場に不満を感じて行う転職は、上手くいきにくい傾向にある。
“前向きな理由” が転職を成功に導く
これに対して、「○○をやりたい」「○○になりたい」などのように “前向きな目的” があり、その実現のために行う転職は比較的、上手くいきやすいようである。
たとえば、「旅行にかかわる仕事をしたい」との思いがあり、旅行会社に転職する、「税理士になりたい」という目的があり、受験勉強をしながら働ける職場に移る、などのケースである。
このように、“前向きな目的” を持って選択した職場では、自身の目的実現の妨げにならないのであれば、他の社員が不満に感じるような事柄もあまり気にならないものである。この傾向は、目的に対する思いが強ければ強いほど顕著である。
従って、転職を成功させたいのであれば、自分自身の「やりたい事」「なりたいもの」が明確になった時点で行うに越したことがない。しかしながら、社会に出たての若者が、限られた社会経験の中で自身の「やりたい事」や「なりたいもの」を見つけ出すことは、容易ではない。
何はともあれ、3年間はがむしゃらに頑張る
そのため、勤めた会社の職場環境が耐え難いほど劣悪なものでないならば、3年間程度は頑張って働いてみるとよい。3年間はがむしゃらに頑張り、自身も職業人として成長すると、入社したての頃には見えなかった事柄が見えてくるようになる。その結果、自分自身の「やりたい事」「なりたいもの」のヒントが見つかることも少なくない。
このような事情から、筆者が転職の相談を若者から受けた場合には、職場に不満があるという理由で転職を考えているケースでは、「何はともあれ、今の会社で3年間は頑張りなさい。3年経った時点でもう一度、転職を検討してみなさい」というアドバイスをすることが多い。その結果、入社から3年後に転職をした者もいれば、最初に勤めた会社で「やりたい事」を見つけ出し、長く勤めることを決意した者も存在する。
巷には、転職に過剰な期待を抱かせる転職サイトなども散見されている。それらを見ると、転職後にはあたかも “バラ色の生活” が待っているかのような錯覚を覚えることがある。しかしながら、隣の芝生は青いとは限らないのである。
「何はともあれ、3年間はがむしゃらに頑張る」。現代の若者には、このような職業観も必要といえよう。
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