大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
賞与をもらってその月中に退職する社員の場合、退職日が月末か月末以外かにより、「社会保険料負担の要否」が異なることをご存じだろうか。今回は、賞与の支給を受けて退職する予定の社員について、賞与支給時の社会保険手続きを確認しよう。
資格喪失月に支給した賞与は、原則として保険料の負担対象にならない
賞与が厚生年金保険・健康保険の資格喪失月に支給されることがある。この場合、その賞与は厚生年金保険等の保険料の負担対象にならないのが原則である。
例えば、7月上旬に夏の賞与の支給を受け、7月20日付で退職する社員を考えてみよう。厚生年金保険等の資格喪失日は退職日の翌日なので、7月20日付退職者の資格喪失日は7月21日になる。
この場合の資格喪失月は7月なので、7月上旬に支給した賞与は「資格喪失月の支給」となる。厚生年金保険等の保険料は、資格取得月から資格喪失月の前月までが納付対象となるので、前述のとおりこの場合は保険料の負担対象にはならないものである。
“月末退職” の場合、退職月に支給した賞与は保険料負担の対象になる
ただし、“月末退職” の場合には事情が異なる。例えば、7月上旬に夏の賞与の支給を受けて7月末日付で退職する場合、厚生年金保険等の資格喪失日は8月1日になる。
この場合の資格喪失月は8月である。従って、7月上旬に支給した賞与は「資格喪失月の支給」とはならず、厚生年金保険等の保険料を負担しなければならない。
つまり、賞与支給月に退職する社員の場合、
“月末以外の退職” … 賞与は保険料の負担対象にならない。
“月末退職” … 賞与は保険料の負担対象になる。
という違いが発生するものある。
“月末以外の退職” でも届け出は必要
次に、届け出について考えてみよう。
通常、賞与を支給すると、5日以内に日本年金機構および健康保険組合に対して『被保険者賞与支払届』を提出し、その結果、保険料計算の根拠となる標準賞与額が決定される。そのため、保険料の負担対象ではない賞与については、届け出が不要のように思える。
しかしながら、健康保険の標準賞与額には年度の累計額に573万円という上限があり、この累計額の計算には、資格喪失日の前日までに支給された賞与が含まれることになっている。
そのため、賞与支給月の “月末以外の退職” のために保険料の負担対象にならなくても、資格喪失日の前日までに支給された賞与であれば、『被保険者賞与支払届』を提出する必要がある。社会保険事務を行う上で、この取り扱いは非常に誤りが多い。十分に注意をしたいものである。
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