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違法な人件費削減で、本当に「コストダウン」はできるのか?

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


違法な人件費の削減行為では「コストダウン」は実現できず、結果的に「コストアップ」につながってしまうケースが多いという。なぜ、そのような現象が起こるのだろうか。



企業の違法行為で従業員の心は離れる

わが国には、従業員を雇う場合の法律が明確に定められている。守らない場合には、懲役刑や罰金刑の対象になることさえある、厳しいルールである。しかしながら、企業にとり、人を雇う際の法律を守らないことの “本当の怖さ” とは、刑事罰の対象になることではなく、「従業員の気持ち、心が離れてしまうこと」である。人間は “理屈” ではなく “感情” で動くからだ。


職場や仕事に対して気持ち、心が離れた従業員が「一生懸命に働くこと」は決してない。仕事に「創意工夫を凝らすこと」もない。「職場の取り組みに融通を利かせること」もない。「長く勤めること」もないかもしれない。


このように、気持ちが離れた従業員のパフォーマンスは、大きくダウンしてしまう。しかしながら、企業は一生懸命働かなくなった従業員に対しても、今までどおりの給料を払わなければならないので、モチベーションの落ちた従業員が所属する企業は、従業員がしっかりと働かないことによる損失を被ることになる。


 具体的には、次のような現象が顕著になる。

  1. 遅刻、早退、欠勤が増える。

  2. 休憩時間、服装、備品の使用など、「職場のルール」が守られなくなる。

  3. 仕事が雑でルーズになり、ミスが増える。

  4. 適切な報告、連絡、相談が行われなくなる。

  5. 同じ仕事をしているのに、今までより時間がかかる。

  6. 勤務中の不要な会話が増える。

挙げれば切りがない。これらは皆、“商品力の低下” “サービスの劣化” を招き、「顧客離れ」による売上げ・利益の低下を誘発してしまう。


真のコストダウンとは「利益を増やすこと」

真のコストダウンとは「利益を増やすこと」だといわれる。経費を削減しても、その結果として利益が減ってしまえば、それはコストダウンではなく、コストアップとなる。経費を使ったとしても、使った経費以上の利益が得られれば、それはコストダウンといえる。


残業代を正しく支払わないなど、違法な勤務を強いるという方法による人件費の削減は、従業員のパフォーマンス低下による損失を招きがちである。そのため、一般的には真のコストダウンにはなり得ず、結果的にコストアップにつながってしまうケースが少なくない。


違法な勤務を強いたことにより、従業員が働くことを辞めてしまい、新規採用もままならなくなってしまうというのはよく起こる現象である。結果的に、「ブランド力の低下」「企業イメージの悪化」という大きな損失を被ることも少なくない。


「働きやすい環境の整備」で人件費を上回るメリットの享受を

従って、企業の人件費に対する考え方は、「いかにして、ルールを逸脱してでも人件費を減らすか」ではなく、「いかにして、給料どおりの、あるいは給料以上の働きをしてもらえるように仕向けるか」が重要になる。


従業員に給料どおりの、あるいは給料以上の働きをしてもらうためには、企業側が決められたルールを守って従業員の働きやすい環境を整え、皆の “モチベーション” を上げる努力をすることが欠かせない。


従業員が自分の仕事に対して “意欲的” になれば、給料以上の働きが大いに期待でき、負担した人件費を上回るメリットを企業が享受できることになる。このような発想の転換ができない企業は、生き残りが難しいかもしれない。

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