部下の「好ましい “当たり前” 」をどう育てる

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


企業・組織が異なれば、そこで働く社員の行動のレベルも大きく相違する。社員が “当たり前” のこととして取る行動が大きく異なるのである。同じビジネスパーソンであるにもかかわらず、なぜ “当たり前” のこととして取る行動が変わってしまうのだろうか。



挨拶をするのが “当たり前” の社員、“当たり前” ではない社員

ある中途採用者の話である。その中途採用者は新しい職場で大きな違和感を覚えているという。退社時に誰も挨拶をしないためである。「自分の仕事が終わると誰も何も言わず、一人また一人とオフィスから出て行くんです」とのことだ。


このような中途採用者の例もある。その中途採用者は新しい職場で苦痛な出来事があるという。毎朝の清掃作業である。「なぜ、朝から掃除をしなければいけないんだ。清掃は契約した清掃会社がやっているだろうに」と思うのだという。


前者の例では、中途採用者にとっては「退社時に『お先に失礼します』などと挨拶をするのが “当たり前” 」であった。ところが、転職先では「仕事が終わったら、何も言わずに帰るのが “当たり前” 」であったため、“当たり前” の行動の相違に大きな違和感を覚えたのであろう。また後者の例では、中途採用者にとっては「清掃は清掃会社がやるのが “当たり前” 」であった。ところが、転職先では「毎朝、社員が清掃するのが “当たり前” 」であったため、“当たり前” の行動の相違に苦痛を感じたと思われる。


同年代のビジネスパーソンであったとしても、“当たり前” に取られる行動には大きな違いがある。この違いは所属する企業が異なる場合に顕著である。つまり、どのような企業環境で育ったかにより、人は行動の “当たり前” のレベルが変わってしまうことになる。


ビジネスパーソンの “当たり前” に行われる行動のレベルは、所属する組織のリーダーの行動に大きな影響を受ける傾向にある。つまり、リーダーが “当たり前” に行っている行動であれば、部下も “当たり前” の行動として取り入れることになる。その結果、リーダーが挨拶をする組織は部下も挨拶を励行するようになり、リーダーが自ら清掃をする組織は部下も自ら清掃をするようになる。


反対にリーダーが行わない行動であれば、部下も “当たり前” の行動として取り入れることはない。そのため、リーダーが挨拶をしない組織は部下も挨拶をせず、リーダーが清掃をしない組織は部下も清掃をしないことになる。


リーダーの “当たり前” が組織風土を作る

このように、リーダーの行動は部下の行動に反映されるものである。とくに社歴の浅い若手社員はリーダーの行動の影響を大きく受けやすい。社歴の浅い社員はビジネスパーソンとしての “当たり前” が明確に形成されていないため、リーダーの行動を素直に自身の “当たり前” として受け入れる傾向が強いからである。その意味では、リーダーの行動は若手社員の「組織人としての骨格を形成する」という機能を持ち合わせているともいえる。


さらに、リーダーの行動の影響を受けた部下の行動は、時間の経過とともに組織の雰囲気を構成するようになる。組織風土はこのようにして構築されるという一面を持っている。つまり、リーダーの行動が所属する組織の風土形成にも極めて大きな影響を及ぼすわけである。


部下が「好ましい “当たり前” 」を身に付けるのも、「好ましくない “当たり前” 」を身に付けてしまうのもリーダー次第である。「好ましくない “当たり前” 」が身に付いてしまった部下の場合には、所属する組織が変わった際に新しい組織で機能せず、転職などを繰り返すケースも少なくない。前述の清掃作業に苦痛を感じている中途採用者などがこのケースに当てはまる。自分に身に付いた “当たり前” が「好ましくない “当たり前” 」であることを理解できないからである。


反対に「好ましい “当たり前” 」が身に付いた部下は、かりに職場を変わり、転職先の企業に好ましい組織風土が形成されていない場合であっても、新しい職場に「好ましい “当たり前” 」の風を吹き込む人材となるケースもあるようである。


リーダーの行動は部下の行動を変え、組織風土を変える機能を持つ。自分は部下の「好ましい “当たり前” 」を育てることができているのか。一度、振り返ってみたいものである。ただし、かりに部下の「好ましい “当たり前” 」を育てることが十分にできていなかったとしても、悲観することはない。リーダーが自分自身の行動を変えるのは、心掛け次第でいくらでも可能だからである。

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