部分最適型意思決定と部門間コンフリクト

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


現在、多くの企業で部門間に利害関係の衝突がみられる。皆さんの企業では、各部門が上手く連携を取り、最大の企業成績を上げることができているだろうか。



自部門のことのみを考える社員たち

先日、このような企業に出会った。その企業ではクレーム対応が多いカスタマーセンターの電話対応業務について、頻繁に人材の採用を繰り返していた。なぜ、頻繁に採用を行っていたかというと、新規採用者がすぐに退職してしまうためである。人が定着しないカスタマーセンターのサービスレベルは一向に上がらず、また、採用コストもかさむ一方という状況にあった。


人事部門が採用を行いカスタマーセンターに人材を投入するのだが、人事部門に聞くと「カスタマーセンターが適切な教育をしないから、新規採用者がすぐに退職するのだ」といい、離職率の高さはカスタマーセンターに原因があると説明する。カスタマーセンターに聞くと「人事部門の採用する人材に問題があるから、新規採用者が長続きしないのだ」といい、離職率の高さは人事部門に原因があると説明する。


ところが、よく調査をしたところ、人事部門は採用時に「クレーム対応が多い職場であること」を応募者に対して明確に説明していないことが判明した。その結果、人材募集時の業務内容と実際の業務にミスマッチが発生し、高い離職率に繋がっていたものである。


人事部門によると、クレーム対応が多いことを説明すると採用活動が困難になるのだそうである。そのため、人事部門とすれば、カスタマーセンターから人材採用の依頼が来れば、決められた期日までに新規採用者の頭数を揃えることだけを自分たちのミッションと考え、そのミッションが最も効率よく達成できる手法で業務を遂行していた。その結果、「採用後のことは自分たちの責任ではない」という意識が生まれてしまったものである。このような考え方を「部分最適」または「部分最適型意思決定」という。


機能別組織が陥りがちな「部分最適型意思決定」

企業は規模の違いこそあれ、機能別に組織されているケースが多い。たとえば、総務部、人事部、営業部、カスタマーサービス部など、組織内で果たす機能の違いにより部門が作られる。このような組織を機能別組織という。


このような組織の各部門が日々の業務でくだす意思決定は、大きく2種類に分けることができる。自分のセクションにとって最も好ましい意思決定を最優先とする「部分最適型意思決定」と、企業全体の視点で考えたときに最も好ましい意思決定を最優先とする「全体最適型意思決定」の2種類である。


前述の人事部門が採用時に行った「クレーム対応が多いことを明確に説明すると採用活動が困難」との理由で、そのことをしっかりと応募者に伝えず、単に必要人数だけを採用しているのは、まさに「部分最適型意思決定」の典型的なケースといえる。


企業・組織では、このような「部分最適型意思決定」が非常に多いものである。その結果、部門間で利害が衝突し、部門間コンフリクトが発生してしまうことになる。管理部門対営業部門、営業部門対製造部門、製造部門対開発部門など、いたるところに部門間の衝突が見られる傾向にある。「部分最適」から抜け出せない各部門の利害調整は、非常に困難である。


「部分最適」の和は「全体最適」にならない

しかしながら、各部門の「部分最適」を全部集めても、その企業の「全体最適」になることは決してない。


従って、企業経営上は「全体最適」を前提に、各部門の可能な範囲での「適」を考える必要がある。そのため、このような視点を持った社員を育成することが不可欠であり、部門長はもちろん一般社員にも「一つ上の視点で物事を考える習慣」を身に付けさせることが求められる。


部門間コンフリクトは経営トップが傍観者になっては解決が困難である。「経営者視点を持つ幹部社員の養成」「一般社員に “高い視点” を求める企業風土の醸成」など、経営トップの強力なリーダーシップが必要とされる経営課題といえよう。


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