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部分最適思考型社員の組織適合性

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


社員の中には法の定めを背景に、自身の権利を声高に主張する者がいることがある。そのような姿勢の社員の存在を、企業側はどのように捉えればよいのだろうか。



職場に迷惑をかけてでも有給休暇を取る社員

ひとつ事例を紹介しよう。中小企業のX社では商品の販売が想定外に好調となり、業務が突然、忙しくなった。そんな時、A社員とB社員の2人が同時に有給休暇の取得を申し出てきた。しかしながら、2人に有給休暇を与えると、業務に大きな支障が出てしまう。また、現在の繁忙状態がいつ収束するかは予測不可能なため、現時点では有給休暇を他の日に変更させる目途も立たない。


X社の人事担当者は2人に対して、「この日に休まれると、業務上、大きなトラブルが発生してしまう。また、現時点で有給休暇を他の日に与える目途も立たない。本当に申し訳ないのだが、とにかくこの日は出勤してもらえないか」と説明をした。その話に対して、2人の社員の反応は対照的であった。


A社員は「有給休暇は労働者の権利なのだから、取得できて当然のはずです。会社には有給休暇の申請を却下する法律上の権利はありません。代替の有給休暇取得日の目途が立たないのであれば、私は有給休暇を取得させてもらいます」と言い、当日は出勤してこなかった。これに対して、B社員は「分かりました。じゃあ、その日は有給休暇を取りやめて、出勤します。でも、なるべく早めに有給休暇を取らせてくださいね!」と言って、当日は出勤してきた。


皆さんはこの話を聞いて何を感じるだろうか。「有給休暇を与えないなんて、X社はとんでもないブラック企業だ」と思うだろうか。


必ずしも法律で解決できない企業経営問題

もしも、A、B両社員が希望どおりに有給休暇を取得した場合、X社は想定外の繁忙という経営問題を、どのように解決すればよいのだろうか。企業規模や業務内容によっては、解決する手段を持ち得ないかもしれない。


企業経営は複雑である。法の定めだけでは解決できない事象が発生することも少なくない。そのため、企業側に悪意があるわけではなく、労働法の知識がないわけでもないのだが、突発的な環境変化に対応し切れず、社員に希望どおりの有給休暇を与えられないなどの事態が起こるものである。経営基盤の脆弱な中小企業・小規模企業の場合にはなおさらである。


確かに、A社員の「有給休暇は労働者の権利なのだから、取得できて当然のはずです。会社には有給休暇の申請を却下する法律上の権利がありません」という主張は、労働法上は間違いではない。そのため、A社員が希望どおりに有給休暇を取得したとしても、法律上、その行為について直接的な問題が発生することはないかもしれない。


しかしながら、企業経営上はA社員のような対応は、組織運営に適合した “好ましい姿” とは言い難いかもしれない。


「部分最適思考」の社員ばかりでは「全体最適」は実現できない

「部分最適思考」と「全体最適思考」という2つの概念がある。前述のような状況をこの2つの概念で整理すると、自分の行動が会社に “マイナスの影響” を与えることを顧みず、有給休暇取得という “自分にとっての最良の選択” をしたA社員の行動は、「部分最適思考」といえる。


これに対して、会社の置かれている状況を考え、有給休暇取得の希望を取り下げて出勤するという “会社にとっての最良の選択” をしたB社員の行動は、「全体最適思考」といえる。


「部分最適」の総和は、決して「全体最適」にはならないという原則がある。つまり、組織を構成するメンバーが、“自分にとっての最良の選択” を主張する「部分最適思考」の社員ばかりでは、その企業にとって最も望まれる状態である「全体最適」は実現が不可能なわけである。


たとえ、社員の行動に法律上の直接的な問題がなかったとしても、この原則は変わらない。そのため、残念ながら「部分最適思考」の強い社員は、組織運営に対する適合性が低くなるケースが出てきがちである。


経営課題解決のカギを握る「全体最適思考型社員」

もちろん、法律上の定めを軽視するわけではない。企業には労働法制を遵守しなければならない厳しい義務が課されており、当然、昨春から新しくスタートした「年次有給休暇の時季指定義務」にも適切に対応していなければならないことは言うまでもない。


ただし、企業経営上は法律の定めだけでは解決できない問題が発生することがある。


そのような時、経営課題解決の重要なカギを握るのが、企業にとっての最良は何かを考えて自身の行動を選択できる「全体最適思考」を持つ社員の存在である。想定外の環境変化に直面したときには、「部分最適」ではなく「全体最適」で動ける社員が、組織運営への適合性が高い “望まれる社員像” といえるかもしれない。


従って、法を遵守した上でさらに円滑な企業運営を実現するには、いかにして「全体最適思考」を持つ社員を採用・育成するかが重要になる。皆さんの職場では、「部分最適思考」と「全体最適思考」のどちらの社員が多いだろうか。

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