【2026年10月】賃金要件の撤廃と保険料調整制度の開始
更新日:2 日前
大須賀信敬(特定社会保険労務士)
2026年10月から社会保険の保険料調整制度がスタートする。この制度の最大のメリットは、パートの給料の手取り額が増えること。ただし、すべてのパートが対象になる制度ではないようである。そこで今回は、もうすぐ始まる保険料調整制度の仕組みを見ていこう。

目 次
適用拡大の対象者を支援する「保険料調整制度」
今回のテーマは、令和8年10月から開始される保険料調整制度。はじめに、この制度が導入されることになった経緯から見ていこう。
保険料調整制度の導入には、背景に社会保険の適用拡大が進んでいることがある。昨年(令和7年)6月、5年に1度の大幅な年金制度改正が実施された。このときに決まった項目のひとつが、社会保険の適用拡大。それまで複数回行われた適用拡大を、再び始めることが決定した。
具体的には、以下のスケジュールで順次実施される。
|
法改正の影響を被るのは、比較的規模の小さい企業やそこで働くパートタイマーである。そのような企業・パートタイマーの経済的な負担を軽減するため、昨年の法改正では影響を緩和する支援策も同時に設けられている。これが、今回説明する保険料調整制度である。
パート勤務の賃金要件はいよいよ撤廃に
それでは、保険料調整制度の説明に先立ち、社会保険適用拡大の最初の実施項目である賃金要件の撤廃について見ていこう。
令和8年9月現在、パートで働く人の厚生年金や健康保険は、次の要件をすべて満たしていると加入が義務付けられる。
|
3番目の「所定内賃金が月額8.8万円以上であること」が賃金要件である。この要件は、2026年10月に撤廃することが予定されています。ただし、給料が8.8万円未満の場合でも、社会保険への加入義務が発生するわけではない。
確かに、賃金要件が撤廃されれば、社会保険の加入に際して給料の金額は問われない。しかしながら、現状では労働時間要件を満たせば自動的に賃金要件も満たすため、給料が8.8万円未満のパートタイマーが社会保険への加入を求められることはない。つまり、賃金要件は設けておく必要がなくなったてめ、撤廃するわけだ。
労働時間要件である「週20時間以上の勤務」で賃金要件の「月額8.8万円以上」を満たすには、パートの時給が1,016円以上であることが必要である。厚生労働省の発表によると、日本の地域別最低賃金の最低額は令和7年度が1,023円。この時点で1,016円を上回っている。さらに、令和8年度の最低額は、1,085円になることが見込まれている。
図表01

このような状況から労働時間要件だけあれば、わざわざ賃金要件を設ける必要はなくなったわけである。
保険料調整制度は手取り減少を抑えられる
新規で社会保険に加入すると、それまでよりも給料の手取りが減少する。手取りが減るくらいなら、パート勤めを辞めると考える人もいるかもしれません。このような問題に対応するため、適用拡大に合わせて設けられた仕組みが保険料調整制度である。
本来であれば、社会保険料は企業と従業員とが折半負担をするのが原則である。しかしながら、保険料調整制度を利用すると、両者の保険料負担割合を変更することが可能になります。つまり、従業員が払うべき保険料の一部を、企業が肩代わりすることが認められるわけである。
たとえば、企業が7割負担、従業員は3割負担などとすることが可能になる。その結果、従業員の給料から引かれる社会保険料は減少し、手取り額は増加することになります。
もちろん、従業員の負担が軽くなる分だけ、企業側の負担は一時的に増加をする。しかしながら、企業が肩代わりした保険料額は、3カ月後に日本年金機構から還付が行われます。具体的には、企業が余計に負担した金額の分だけ、3カ月後に日本年金機構に支払う保険料が減額される。そのため、企業が支払う社会保険料額は、実質的には増加することがない。
加えて、パートタイマーが将来受け取る年金が、少なくなることもない。確かに、従業員の社会保険料の支払いが減れば、年金額が少なくなるのが通常である。しかしながら、この制度で従業員の社会保険料の支払いが少なくなった場合には、将来受け取る年金額は「通常どおりに保険料を負担した」として決定されます。
そのため、保険料調整制度を利用したことにより、年金の減額というデメリットが発生することはないわけである。パートタイマーは手取りが増えて年金は減らず、企業側も損失を被ることがない制度といよう。
給料10.5万円でパート勤務をすると
具体的な事例を使って見ていこう。社会保険の適用が拡大され、新規に加入したパートのAさんがいるとする。Aさんの給料は月額10.5万円。標準報酬月額は10.4万円である。
このケースでは、通常であればAさんの保険料負担の月額は、次のようになる。
※ 健康保険料率は協会けんぽの全国平均料率で計算。以下同じ。 |
合計で月14,664円。その分、Aさんの給料の手取り額は減ることになる。
ところが、保険料調整制度を利用すると、Aさんの保険料負担割合を通常の50%から36%に減額することができる。36%に下がったAさんの保険料負担の月額は、次のとおりとなる。
|
合計で月10,559円。本来の負担額14,664円よりも4,105円少なくなります。1年間では49,260円の減額である。
一方、企業側の負担は本来の額よりも月に4,105円増え、18,769円になる。ただし、この金額の分だけ3カ月後に支払う保険料額が減額されるので、最終的な会社の負担は月14,664円のままで変わらない。
図表02

大手企業は保険料調整制度を使えない
ただし、すべての企業で保険料調整制度を利用できるわけではない。この制度を利用できるのは、特定の条件を満たした企業に限定されているからである。
具体的には、令和8年10月から利用可能なのは、「厚生年金の被保険者数50人以下の企業」が自らの意思で令和8年10月以降、短時間労働者を社会保険の加入対象とした場合のみである。このような企業を任意特定適用事業所という。
たとえば、従業員数が30人の会社について考えてみよう。この企業は厚生年金の被保険者数が51人以上ではないので、通常であれば短時間労働者は社会保険の加入対象にならない。それでも、企業側が自ら「短時間労働者を社会保険に加入させたい」と申請をすれば、加入させることが可能である。令和8年10月からは、このような場合にのみ保険料調整制度の利用が認められる。
一方、「厚生年金の被保険者数51人以上の企業」の場合には、令和8年10月以降に短時間労働者を雇ったとしても、この制度の利用は認められない。つまり、パートがすでに社会保険の加入対象になっている多くの企業では、保険料調整制度を使えないわけである。
また、1年後の令和9年10月以降は、上記に加えて社会保険の適用拡大に関する法改正で「短時間労働者が新たに社会保険の加入対象になる企業」が順次、本制度の利用対象とされる。
以上をまとめると、次のとおりである。
■ 保険料調整制度を利用できる企業
|
上記以外でこの制度が利用できる場合もなくはないが、非常に稀なケースになる。
給料13万円未満のパートが対象
従業員が実際に負担する保険料の割合は、企業側が自由に決定できるわけではない。標準報酬月額の等級に応じた所定の割合を使用する必要がある。
たとえば、標準報酬月額が9.8万円のケースでは従業員負担は30%、10.4万円の場合は36%などと定められている。具体的には、下図のとおりである。
図表03

上図のとおり、標準報酬月額が高くなるほど、従業員の保険料負担割合が大きくなる仕組みである。
なお、この制度が利用できるのは3年間だけだが、制度利用3年目は従業員負担の軽減割合がそれまでの半分に減る。そのため、従業員が3年目に支払う保険料は、1・2年目よりも多くなる。
図表04

また、この制度を利用できる従業員は、標準報酬月額12.6万円以下で社会保険に加入する短時間労働者に限定されている。給料額にすると13万円未満である。短時間労働者として会社に雇われても、給料が13万円以上の場合は保険料調整制度は使えない。
さらに、会社がこの制度を利用する場合には、条件に該当するすべての従業員を対象にする必要があります。対象を一部の従業員に限定することは認められない。
従業員の保険料が安くなるのは最大3年間
保険料調整制度は企業が利用を始めてから3年間のみの限定措置である。そのため、企業が制度の利用を始めてからしばらくして入社した従業員の場合には、保険料が安くなる期間が3年間に満たなくなる。
たとえば、令和9年2月1日から制度を利用する企業があるとする。この場合、企業が制度を利用できるのは3年後の令和12年1月31日まで。令和9年2月1日入社の従業員の場合は、保険料は3年間減額される。
一方、1年後の令和10年2月1日入社の従業員は、保険料が軽減される期間は令和12年1月31日までの2年間のみとなる。
図表05

それぞれの従業員が3年ずつ保険料を安くしてもらえるわけではないので、注意をしたい。
なお、保険料調整制度を利用したい場合には、企業がこの制度の対象になった日から2年以内に手続きをする必要がある。また、一旦、制度の利用を開始したら、途中でやめることは認められていない。
保険料調整制度を利用すると、従業員は保険料負担が下がった状態で社会保険加入を始められる。年金が減ることもないので、将来的にも安心だろう。制度を導入している企業があれば、パート勤めを検討してもよいかもしれない。
今回のまとめ
|
【参 考】

Lectures by the Labor and Social Security Attorneys



