【2026年10月】国民年金の育児免除制度が開始
大須賀信敬(特定社会保険労務士)
2026年10月から国民年金の「育児免除制度」が始まる。この制度は、育児中の自営業者やフリーランス、ギグワーカーなどの国民年金保険料を免除する仕組み。夫婦のいずれも利用が可能ある。今回は、もうすぐ始まる国民年金の「育児免除制度」の内容を見ていこう。

目 次
出産・育児の保険料免除が遅れた国民年金
はじめに、年金制度の「出産・育児の保険料免除」の歴史を見ていこう。年金制度に出産・育児に関する保険料免除が初めて設けられたのは、今から約30年前の平成7年4月。育児休業中の従業員の厚生年金保険料を免除する「育児休業期間中の保険料免除制度」ができたことが始まりである。
その5年後の平成12年4月には、「育児休業期間中の保険料免除制度」で企業負担分の保険料も免除可能になった。さらに、5年後の平成17年4月には、最長で子供が3歳になるまで保険料の免除を認めるなど、制度の拡充が繰り返される。
平成26年4月には厚生年金に「産前産後休業期間中の保険料免除制度」も導入されるなど、厚生年金の出産・育児に関する保険料免除は約20年の間に大きな進展を遂げた。
一方、この時点で国民年金には、出産・育児に関する保険料免除の仕組みが存在しない。会社員への出産・育児に伴う年金面の支援措置が充実したのに対し、自営業者・フリーランスなどへの同様の支援はまったく手つかずだったわけである。
このような状況を踏まえ、平成31年4月に初めて国民年金に出産・育児に関する保険料免除の仕組みが導入された。「産前産後期間の保険料免除制度」「産前産後免除制度」などと呼ばれる制度である。
図表01

一般的に、会社員の場合は育児休業を取得すると、給料が下がるケースが多いようである。ただし、かわりにハローワークから育児休業給付金などを受け取れるため、一定の収入は確保される。つまり、育児休業中は育児休業給付金などで収入を確保しつつ、厚生年金の保険料負担は免れるわけである。
ところが、自営業者やフリーランスの場合には育児で仕事からの収入が減少しても、ハローワークから育児休業給付金などを受け取ることができない。それにもかかわらず、国民年金の保険料は支払わなければ未納扱いとされてしまう。
このような格差を解消するために令和8年10月から開始されるのが、国民年金の「育児免除制度」。この制度がスタートすることにより、会社員と自営業者の間に存在する公的支援の格差が、一定程度、解消されることになるようである。
利用対象は第1号被保険者のみ
それでは、国民年金の育児免除制度の具体的な仕組みを見ていこう。国民年金の保険料が免除になる対象者は、令和8年10月1日以降に1歳までの子を養育する第1号被保険者で、次の2つの要件の両方を満たしていることが必要である。
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実父母だけでなく、養子縁組によって法的な親子関係を結んだ養父母も保険料免除の対象とされる。
一方、国民年金の第2号被保険者・第3号被保険者は、この制度を利用できない。第2号被保険者は厚生年金の加入者なので、厚生年金側の免除制度を利用可能である。専業主婦などの第3号被保険者の場合は、そもそも本人に国民年金保険料の納付義務がないため、免除する保険料が存在しない。
また、国民年金の任意加入被保険者も、制度の対象外とされている。保険料免除制度とは国民年金に加入が強制されている人に対し、「加入に伴って生じる義務」を免除する仕組みである。しかしながら、任意加入被保険者は国民年金に加入は強制されていない。そのため、「加入に伴って生じる義務」を免除する対象にもなり得ない。
たとえば、海外に在住する日本国籍者の中には、将来受け取る年金額を増やしたいと考えて国民年金に任意加入をするケースがある。しかしながら、この日本国籍者は育児中でも育児免除制度は利用できない。
なお、一般的な保険料免除制度では、前年の所得が一定額以下でないと対象とされない。しかし、国民年金の育児免除制度では所得の多寡が問われない。高所得でも要件を満たせば、保険料が免除されるわけである。
1歳までの保険料が納付不要に
国民年金の育児免除制度で保険料が免除されるのは、子どもが1歳になるまでである。具体的には、誕生月から1年間の保険料納付が免除される。
たとえば、夫婦で自営業を営むA男さん(第1号被保険者)の奥さんB子さん(第1号被保険者)が、令和8年11月10日に出産をしたとする。国民年金の育児免除制度で保険料が免除になるのは誕生月から1年間なので、A男さんは令和8年11月から1歳の誕生月の前月である令和9年10月までの1年分の保険料納付が免除されることになる。
図表02

出産をしたB子さんの場合には、国民年金の産前産後免除制度が利用できる。この制度では出産した子供が1人の場合、出産の前月から4カ月分の保険料納付が免除される。B子さんの場合は、出産の前月である令和8年10月から令和9年1月までの4カ月分の保険料が、産前産後免除制度によって納付不要である。
そのため、産前産後免除の期間が終わった翌月から1歳の誕生月の前月までの保険料が、育児免除制度による免除対象とされる。出産をしたB子さんの場合は、2つの制度を合わせて13カ月分の保険料納付が免除されることになる。
図表03

次は、令和8年9月以前に出産していた場合である。国民年金の育児免除制度が始まるのは令和8年10月から。そのため、この制度による免除の対象は、同年10月以降の保険料に限られている。出産が令和8年9月以前の場合には、同年10月から子どもの1歳の誕生月の前月までが保険料免除の対象とされる。
たとえば、令和8年4月10日に出産をしたC子さん(第1号被保険者)がいるとする。C子さんの場合は、出産の前月である令和8年3月から同年6月までの4カ月間は、産前産後免除制度で保険料納付が免除される。
しかしながら、令和8年7月から同年9月までは育児免除制度の開始前のため、保険料は免除にならない。したがって、令和8年10月から、子どもの1歳の誕生月の前月である2027令和9年3月までの6カ月分の保険料のみ育児免除の対象とされることになる。
図表04

育児免除を使っても老齢基礎年金は減らない
保険料が免除になると、「将来受給する年金が減額になるのではないか」と考える方がいるかもしれない。しかしながら、国民年金の育児免除制度の場合には、そのような現象は生じない。
この制度を利用して保険料が免除された期間は、保険料納付済期間とされます。つまり、保険料を納めた期間と同じ扱いになるわけである。そのため、この制度を利用したことによって、老齢基礎年金が減額になることはない。
たとえば、保険料を実際に納めた期間が39年間、育児免除制度で免除された期間が1年間の人がいるとする。この人は保険料を納めた期間が40年間ある人と同じ扱いになるので、満額の老齢基礎年金を受け取れることになる。
「保険料が免除された期間を保険料納付済期間とする」というルールは、産前産後免除制度と同じである。このように、出産・育児に関する免除制度の場合は、他の免除制度と扱いが異なっている。
なお、育児免除の期間中は、希望すれば付加保険料を払うことが可能である。将来受け取る年金額を少しでも多くしたいと考えた場合には、「育児免除の期間について付加保険料の納付を申し込む」という方法も有効である。
納付済みの保険料は還付される
かりに、育児免除を申し込む前に保険料を払ってたらどうなるだろうか。先ほど登場したA男さんのケースで考えてみよう。「妻のB子さんが令和8年11月10日に出産をした」という事例である。
通常であれば、A男さんの国民年金保険料は、出産月である令和8年11月から令和9年10月までの1年間、納付が免除される。それでは、A男さんが令和8年度の保険料を前納していたらどうなるだろうか。令和8年4月から令和9年3月までの1年分の保険料が、支払い済みの状態ということである。
このケースでA男さんの国民年金保険料が免除されるのは、令和8年11月から令和9年10月までの1年分で変わらない。そのため、免除期間中に納付済みの保険料がある場合には、還付(返金)されることになる。
図表05

ただし、保険料の未納月がある場合には、還付する保険料は先に未納月の保険料に充てられ、残りがあれば還付される。
また、かりに通常の保険料免除制度や納付猶予制度などを利用していたとしても、1歳未満の子を養育しはじめたらそれらの期間には育児免除制度が適用される。通常の免除・猶予の期間が育児免除の期間に変われば、老齢基礎年金の金額に反映されて有利だからである。
育児免除制度を利用する場合には、市区町村の国民年金の窓口で申請をすることになる。
対象者はそれほど多くない?
前述のとおり、国民年金の育児免除制度を利用できるのは、第1号被保険者に限定されている。第2号被保険者・第3号被保険者・任意加入被保険者は利用できない。
厚生労働省の『令和6年度厚生年金保険・国民年金事業年報』で、現在、国民年金に加入している人の内訳を見ると、第2号被保険者が70.3%で圧倒的多数を占めている。次が第1号被保険者で19.9%。
図表06

「第2号被保険者が7割、第1号被保険者が2割」といったイメージである。
また、国民年金の加入者のうち第1号被保険者の割合は、10年ほど前の平成27年度末時点では24.5%であり、減少傾向にあるといえる。
図表07

近年、インターネットやアプリを通じて単発の仕事を請け負うギグワーカーが増加しているといわれる。このような働き方をしている場合、年齢の要件などを満たせば国民年金の第1号被保険者に該当するだろう。
しかしながら、全体的な傾向としては第1号被保険者は減少傾向にある。その意味では、育児免除制度の利用対象者は必ずしも多いとはいえないかもしれない。
ただし、この制度が意味のない制度とはいえない。「会社員と自営業者の間に存在する年金面の格差が一つ解消される」という点では、大きな意義を持つ制度ではないだろうか。
今回のまとめ
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【参 考】

Lectures by the Labor and Social Security Attorneys



