【令和7年法改正特集④】遺族年金の見直し〈後編〉
更新日:7 日前
大須賀信敬(特定社会保険労務士)
令和7年6月、5年に1度の年金改正の内容が決定した。果たして、日本の年金はこれからどのように変わるのか。4回目の今回は「遺族年金の見直し」の後編として、前回の続きを見ていこう。

目 次
■ 子供支援に重きを置く国民年金
令和7年6月13日に成立した「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」では、以下の項目の実施が法定されている。
|
前回は3番目の『遺族年金の見直し』のうち、「60歳未満の配偶者が受給する遺族厚生年金」の内容を解説した。今回は、『遺族年金の見直し』に関する残りの改正点を取り上げる。
改正内容の話に入る前に、「国民年金の遺族基礎年金はどのようなときにもらえるのか」を整理してみよう。現在の制度で遺族基礎年金をもらえるのは、
|
のいずれかである。ただし、子供は何歳でもよいわけではなく、親が他界してから「18歳になった後に3月31日を迎えるまで」が遺族基礎年金の対象になる期間とされる。
たとえば、今年(令和7年)の8月に18歳になった子供の場合には、来年(令和8年)の3月31日までが遺族基礎年金の対象の子供とされる。今年(令和7年)の9月に18歳になった子も、同年10月に18歳になった子も、等しく来年(令和8年)の3月31日までが遺族基礎年金の対象である。
図表01

同学年の子供であれば、何月生まれでも同じ時期まで遺族基礎年金の対象になる仕組みだ。ちょうど高校を卒業する頃までである。このような子供のことを「18歳になった年度の3月31日までにある子」とか「18歳到達年度の末日までの子」などと呼ぶ。
ただし、子供が国民年金の障害年金をもらえるような障害を抱えている場合には、20歳になる前まで遺族基礎年金の対象とされる。一方、配偶者が亡くなっても、子供がいなければ遺族基礎年金は支払い対象にならない。
もともと、国民年金の死亡に関する年金は、「母子家庭を支援する年金」「母子家庭に準ずる家庭を支援する年金」「親を亡くした遺児を支援する年金」が別々に設けられていた。つまり、子供を支援することに主眼が置かれていたわけである。
それらの制度が統合され、現在の遺族基礎年金ができている。このような事情から、遺族基礎年金を受け取るには、対象になる子がいることが条件とされる。
したがって、子供のいない夫婦が配偶者と死別しても、遺族厚生年金とは異なり遺族基礎年金はもらうことができない。
■ 遺族基礎年金は子供がもらいやすくなる
今回の制度改正では、子供が国民年金の遺族基礎年金をもらいやすくなる変更が行われている。実は、現在の仕組みでは、子供は親が他界しても必ず遺族基礎年金をもらえるわけではない。「一緒に暮らす親がいるときは、子供への遺族基礎年金は支払いを停止する」というルールが定められている。親が生活の面倒を見てくれるからである。
具体例で考えてみよう。30歳代のA子さんは専業主婦で、同世代の夫である自営業のB男さんと小学生の子供C子ちゃんとの3人暮らしである。ある日、B男さんは不慮の事故に遭い、他界した。この場合、遺族基礎年金は誰に支払われるだろうか。
この場合に遺族基礎年金が支払われるのは、A子さんに対してだけになる。もちろん、お父さんを失ったC子ちゃんにも遺族基礎年金をもらう権利は発生するのだが、親であるA子さんと暮らしているのでC子ちゃんに対する遺族基礎年金の実際の支払いは行われない。親が遺族基礎年金をもらっているときは、その子供に対する支払いは停止されるわけである。
一方、親を失った子供のなかには、その後に「遺族基礎年金をもらえない親」と暮らすケースも存在する。この場合も現在の制度では、「一緒に暮らす親がいるときは、子供への遺族基礎年金は支払いを停止する」というルールにより、子供への支払いは行われない。このようなケースで子供に遺族基礎年金を支払うようにしようというのが、今回の法改正の内容である。
代表的なケースは、親が再婚をした場合である。先ほどの事例で考えてみよう。夫であるB男さんの他界後、A子さんは縁あってD男さんと再婚をした。現在は、A子さんとD男さん、C子ちゃんの3人暮らしである。
この場合、A子さんは再婚をしたので、遺族基礎年金を受け取る権利がなくなる。もちろん、D男さんにも遺族基礎年金を受け取る権利はない。C子ちゃんも遺族基礎年金をもらえない。親であるA子さんやD男さんと一緒に暮らしているので、「一緒に暮らす親がいるときは、子供への遺族基礎年金は支払いを停止する」というルールが適用されるからである。
図表02

その結果、B男さんが亡くなったことによる年金制度からの生活支援が、一切、行われていない状態になる。このようなケースで、C子ちゃんが遺族基礎年金をもらえるようにしようというのが、今回の法改正の内容というわけである。
■「祖父母の養子になった子」なども遺族基礎年金をもらえる
それでは、さらに3つの事例を紹介しよう。
■ 祖父母の養子になった場合 子供の両親はともに他界してしまった。そのため、祖父母が残された子と養子縁組をし、引き取って育てている。 |
図表03

■ 親が収入要件を満たさない場合 妻が死亡して夫と子が残された。残された夫は年収が850万円以上あるため、遺族基礎年金をもらえない。 |
図表04

■ 離婚している親に引き取られた場合 両親が離婚し、子供は夫に引き取られて生活をしていた。しかしながら、その後に夫が亡くなったため、元妻が子供を引き取って育てることにした。 |
図表05

これらのケースは、現在の制度ではすべて「一緒に暮らす親がいるときは、子供への遺族基礎年金は支払いを停止する」というルールが適用され、支払いが行われない。
しかしながら、今回の法改正により、遺族年金の見直しに関する改正が施行になる令和10年4月1日からは、上記のようなケースでも子供に対する支給停止を行わないことが決定している。
■ 手厚くなる「子の加算」
親を失った子供に対する制度の拡充は、他にも次の3つの施策が行われる。
① 3人目以降の子供の加算額を1・2人目と同額にする。 ② 子供1人当たりの加算額を増額する。 ③ 遺族厚生年金にも子の加算を付ける。 |
順番に見ていこう。はじめに、①の「3人目以降の子供の加算額を1・2人目と同額にする」である。
現在、法律上定められた遺族基礎年金の子の加算額は、1人目と2人目の子は1人当たり「224,700円に改定率を乗じて得た額」、3人目以降の子は「74,900円に改定率を乗じて得た額」である。3人目以降の子は、1・2人目の子の3分の1の金額に減ってしまう。
実は、現在の年金制度の子に関する加算は、国家公務員に支給する扶養手当の仕組みを参考に作られている。年金制度を整備した当時、国家公務員の扶養手当は第3子以降の手当額を減額する仕組みだったため、年金でも同様の仕組みが採用された。
しかしながら、現在は法改正によって国家公務員の扶養手当は、第3子以降も第1子や第2子と同額の手当に変更されている。そこで、年金制度でも同様の取り扱いにすることが決定したわけである。
次に②の「子供1人当たりの加算額を増額する」である。これは、子の加算額を全ての子供について1人当たり「269,600円に改定率を乗じて得た額」に変更するという法改正である。
現在の金額が1人目と2人目の子供は「224,700円に改定率を乗じて得た額」なので、加算の基準となる金額が2割増額されることになる。3人目以降の子供は、前述①の施策と合わせると3.6倍の金額に変更される。
厚生労働省では、参考までにかりに令和6年度であれば、子供1人当たりの加算額は281,700円になると説明している。同年度の実際の加算額は子ども2人目までは1人当たり 234,800円だったので、子供1人につき46,900円増額されることになる。
最後は③の「遺族厚生年金にも子の加算を付ける」という改正である。現在の制度では、遺族年金に関する子の加算は遺族基礎年金のみに付くことになっている。しかしながら、「遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方に子の加算を付ける」という制度変更が決定している。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方がもらえる場合には、遺族基礎年金に付く子の加算が支払いをストップされる。加算は遺族厚生年金側だけに付き、2重には支払われない。
なお、子の加算の拡充に関する法改正も遺族年金の他の改正事項と同様、令和10年4月1日に施行される。
■ 遺族厚生年金をもらえても老齢年金の繰下げが可能に
『遺族年金の見直し』に関する法改正の解説も、いよいよ次で最後である。最後は、「遺族厚生年金をもらえる場合も、老齢年金の繰下げ受給をできるようにする」という改正である。
現在の制度では遺族厚生年金をもらえる人は、自分の老齢基礎年金や老齢厚生年金を繰り下げて受け取ることが認められていない。遺族厚生年金をもらいながら自分の老齢年金を繰り下げて増額できるのは、公的な制度としては「過剰な保障である」と考えるためだろう。
ところで、近年では高齢になっても働きに出る人が少なくない。65歳以上の人の就業率は上昇傾向にあり、とりわけ65歳以上70歳未満の男性の場合には6割以上にも達している(労働力調査2024年/総務省)。
図表06

高齢期の収入の増額に対する必要性が、上昇傾向にあるといえるのではないだろうか。そこで、「年金を増やしたい」というニーズを阻害しないため、年金増額の手段である繰下げ受給制度の利用をしやすくすることになったものである。
したがって、老齢基礎年金については、遺族厚生年金をもらっていても繰り下げて受け取ることが可能になる。そのため、遺族厚生年金で日々の基本的な生活費を賄いつつ、老齢基礎年金の受け取りを延期して貯金に利息が付くかのように増やすなどということが可能になるわけである。
一方、老齢厚生年金も繰り下げて受け取ることは可能になるのだが、仕組みが少し異なる。老齢厚生年金の場合には、「遺族厚生年金をもらう手続きをしていないこと」を条件に繰下げ受給が可能とされた。すでに遺族厚生年金を受け取っていたりすれば、法改正後であっても老齢厚生年金の受け取りを延期して増額することはできない。
この改正が実施されるのも令和10年4月1日からなので、同日以降に65歳になる人が対象とされる。具体的には、昭和38年度以降生まれの人(昭和38年4月2日以降生まれの人)から適用される制度になる。
今回のまとめ
|
【参 考】

Lectures by the Labor and Social Security Attorneys



