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目標の設定と企業の持続的成長

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


昨夏、加入者数約2,100万人を誇る生命保険会社の不適切な販売行為が、メディアを賑わせたことを憶えているだろうか。この問題の背景には、過酷な営業目標があったとも言われている。リーダーが掲げる目標は、時に組織メンバーの不適切な行動を誘発するものである。それでは、目標を設定する上では、どのようなことに留意すればよいのだろうか。



「高い目標」が問題なわけではない

企業が売上や利益、マーケットシェアなどについて「前年同期比○○%アップ」などと数値目標を定めるのは、よく使用される目標設定手法である。そのため、企業が不祥事を起こした際などは、この数値目標の適正さが問題視されることがある。


しかしながら、企業経営上は必ずしも、社員に「高い目標」を与えることが問題とは言い切れない。人は「高い目標」をクリアするために努力し、創意工夫を重ねることで、初めて成長するものだからである。そして、成長した社員が多く在籍する企業ほど、組織としての総合的なクオリティが高くなる傾向にある。


例えば、クオリティが高い職場では「柔軟な発想で、新しい商品・サービスを積極的に開発する」「業務の改善・改革に前向きで、社員の生産性が高い」など、組織としての好ましい姿を実現できているケースが少なくない。このように、企業としての好ましい成長が可能になるのは、成長した社員が企業経営に大きく貢献しているからに他ならない。つまり、「人が育てば企業も育つ」わけである。


反対に、社員に「低い目標」を与えた場合には、達成しても社員の成長にはつながらない。「低い目標」は社員が特別な努力や創意工夫をしなくても、達成可能だからである。そのため、企業が持続的な成長を目指すのであれば、「低い目標」を与えることのほうが好ましくないと言える。社員から見て達成が難しい目標が設定されたからといって、一概にその目標が不適切とは言い切れないものである。


「頑張れば達成可能な目標」は部下によって異なる

しかしながら、社員に与える目標が「実現不可能な目標」の場合には問題である。どんなに努力しても、創意工夫を重ねても「達成できないことが明らかな目標」なのであれば、社員の成長の余地がないからである。


このように、リーダーが設定する目標は、高過ぎても低過ぎても部下の成長には繋がらないものである。目標は部下が「頑張れば達成可能なレベル」に設定することが、育成上の重要なポイントといえよう。これがストレッチ目標と呼ばれる考え方である。


ただし、どの程度の高さの目標が「頑張れば達成可能なレベル」なのかは、部下によって同じではない。優秀な部下であれば、かなり難しい目標を設定しても「頑張れば達成可能なレベル」になるであろう。反対に、ローパーフォーマーの場合には、平均的な目標であっても「頑張れば達成可能なレベル」を超えてしまうかもしれない。


従って、目標を設定する際は、一人ひとりの部下のスキルや取り組み姿勢などを加味することが必要不可欠となる。「高い目標」自体が問題なのではなく、「高い目標」がその部下にとって「頑張れば達成可能なレベル」なのかが問題なのである。


数値目標の達成は「目的」ではなく「手段」と考える

目標を設定した後にも注意点がある。数値目標の達成自体を「目的」と捉えるべきではないという点である。


リーダーが数値目標を定めた場合、その数値目標を達成すること自体が「目的」になる。その結果、通常の方法では目標を達成できない部下が、手段を選ばずに「目的」を遂げようとする現象が起こりやすくなるものである。


また、数値目標を達成すること自体が「目的」の場合、管理監督職クラスの社員が部下に対して不適切な指導を行うという問題が発生することもある。部課長が不正行為を指示・強要するなどのケースである。


このような問題を解消するためには、数値目標の達成は「目的」ではなく、部下を育てる「手段」と考えるとよい。このように考えると、数値目標達成の “過程” にこそ、より大きな意義があることに気付くはずである。


目標を設定した後のリーダーは、部下が数値目標を達成しようとする過程で、次のような取り組みを行うことになる。

  • 部下に対して事前に、育成のための「高い目標」であることを分かりやすく説明する。

  • 部下が目標達成に向けてチャレンジしている最中は、技術的な支援を十分に行う。

  • 失敗自体を問題視せず、失敗から学ぶことを指導する。

  • 反倫理的な行為による目標達成は、断じて認めない。

リーダーのこのような後押しを受けて「高い目標」に挑戦する過程が、部下の大きな成長の糧になる。これが、数値目標の達成が部下育成の「手段」になる所以である。


目標の設定は人材育成の最大のツールである。しかしながら、不正な行為を用いて目先の経営数値を改善しても、人は成長しない。人が成長しなければ、企業に持続的な成長は訪れない。果たして、皆さんの職場では、どのような目標設定を行っているだろか。


 

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