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「批判的な意見」の伝え方

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


ビジネスパーソンが集まれば、上司や同僚、部下に対する『批判的な意見』をつい口にしがちである。「ウチの部長の方針はおかしい」などの発言が行われることも、決して少なくない。ところで、自分よりも上位者の考えや行動に疑問を感じて指摘するとき、どのようなコミュニケーションを取るか次第で、問題が解決に向かうケースもあれば、問題が悪化するケースもあるという。それはどのような仕組みなのだろうか。



“部長批判” を部下の目前で繰り返す課長

ひとつ事例を紹介しよう。


某企業に勤める課長が部下との飲み会の席で、次のような発言を行った。「君たち、ここだけの話だが、ウチ部長の営業方針をおかしいと思わないか? 私は以前からおかしいと思っていたんだ」。


1週間後、課長は部長に呼び出され、次のように詰問された。「課長! 君は部長である私の営業方針にだいぶ文句があるようだが、一体どういうことなんだ!」。その後、部課長間の人間関係が悪化したのはもとより、極めて雰囲気の悪い、息の詰まるような職場に変わってしまったものである。


部長の営業方針に対して『批判的な意見』を持つこの課長は、一体、どうすればよかったのだろうか。


『批判的な意見』は必ず本人に直接伝える

自分よりも上位者に『批判的な意見』を伝える場合の1番目のポイントは、「必ず当事者である本人に対して直接伝える」ということである。先程のケースであれば、部長の営業方針に対する『批判的な意見』は、部長に直接伝えることが必要であったといえる。


ところが、『批判的な意見』は往々にして本人に直接言わず、第三者に対して言いがちである。例えば、部長に対する『批判的な意見』を課長が部下に対して言うという場面は、多くの企業で見られがちな光景といえよう。


しかしながら、本人に直接伝えない『批判的な意見』は、もはや「意見」ではない。単なる陰口、悪口である。部長が不在の場所で「部長の営業方針がおかしい」とどんなに力説しても、部長が営業方針を見直すなどの行動を起こすことはない。つまり、本人に直接伝えない『批判的な意見』は、当事者に “前向きな行動” を促すことがない、何の問題解決にもならない行為というわけである。


また、陰口や悪口は、対象となった本人の耳に必ず入るものである。例えば、「課長が陰で部長批判を展開している」という情報が、部長の耳にうわさ話として入ることになる。そのような話を耳にした部長が、「部長の営業方針がおかしい」という課長の思いに真摯に向き合うはずがない。陰口、悪口は相手の “前向きな行動” を阻害し、問題解決を遅らせる以外の何物でもないのである。


感情的にならず、冷静に伝える

上位者に『批判的な意見』を伝える2番目のポイントは、「感情的にならず、冷静に伝える」ということである。『批判的な意見』を本人に直接伝える場合、ケースによっては声を荒らげてしまうなど、感情的になることがあるからである。


相手の態度は自分の態度の鏡である。そのため、意見を伝える側が感情的になると、意見を言われる側も感情的に対応するのが常である。その結果、お互いに感情のコントロールが困難になり、「相手を責め立てる」という気持ちに歯止めが利かなくなりやすい。


部長の営業方針に異議があるのであれば、異議がある理由などについて、落ち着いて淡々と述べるとよい。意見を述べる側が冷静であれば、相手も冷静に対応しやすくなるものである。感情的な批判からは、建設的な結果は決して生まれないのである。


“考えや行為”と“人格”を混同しない

最後のポイントは、「『批判的な意見』の対象になった “考え・行為” と、『批判的な意見』の対象になった “本人の人格” は別である」という点を忘れないことである。『批判的な意見』を述べていると、話が本題からそれ「だから部長はダメなんですよ!」などと、人格を否定するような発言にまで及んでしまうことがあるからである。


通常、『批判的な意見』の対象になった “考え・行為” は、その人物の全てではない。問題点はあるが、良い点もあるのが人間である。“考え・行為” と本人自身を混同することなく、本人の人格やプライド、自尊心を否定しないことが極めて重要といえる。


自分よりも上位者に直接、『批判的な意見』を伝えるのは簡単ではない。しかしながら、『批判的な意見』を伝えるという行為は、相手の “前向きな行動” を封じかねない難しいコミュニケーションである。ぜひ一度、自分自身の『批判的な意見』の伝え方を振り返っていただきたい。

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