リーダーに求められる「離席の仕方」

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


自身が業務を行っている場所を離れる際、周辺で勤務をしている同僚や後輩、部下などに対してどのようなコミュニケーションを取るか次第で、職場の生産性が大きく変わってくるといわれる。それは一体、どのような仕組みなのだろうか。



黙って職場から姿を消す部長

筆者は若手社員の皆さんから、次のような相談を受けることがある。「ウチの部長は、気付いたら職場からいなくなっていることがあります。何も言わずに席を外すので、どこに行ったのか、いつ戻ってくるのかなどが全く分かりません。そういう時に限って、部長宛ての電話、来客などがあり、非常に困っています」


席を外すときは、近隣の席の同僚などに “行先” と “戻り予定時刻” を告げる。職場の基本動作として、新入社員が指導を受ける『離席時のコミュニケーション行動』である。本稿を読んでいるリーダーの皆さんも、社会人になりたての若手社員の頃、上司・先輩に同様の指導を受けた方が多いのではないだろうか。


ところが、若手社員の時に身に付けたはずの『離席時のコミュニケーション行動』が、管理・監督職などのミドルマネジメントクラスになると、疎かになるケースがある。そのため、職場によっては「黙って姿を消す部長」などが存在することになるのである。


理由はさまざまだが、「部下に行先などを言う必要はない」などの考えから、黙って席を外すリーダーもいるであろう。中には、「私用で外出するため、部下には言えない」ということもあるようである。


企業によっては、離席時の行先を一覧できる行先予定表などを作成し、使用しているケースもある。しかしながら、一般的に行先予定表は、離席理由を網羅的に記載するわけではない。そのため、「予定表に何の記載もないのに、部長が席にいない」ということも起こりがちである。


上司に対する不信感・不満感などが生産性低下の一因に

リーダーが『離席時のコミュニケーション行動』を怠ると、職場生産性が低下するという。そのような現象が起こる1番目の理由は、部下に「予定外の業務」が発生することがあるためである。


例えば、部長が黙って離席した後に、部長宛てに電話や来客、役員からの呼び出しなどが発生した場合には、部下が部長の行先をあちこちと探すことになる。つまり、“行先” と “戻り予定時刻” が告げられていれば発生することがなかった「部長を探すという仕事」に、部下が時間を割かなければならなくなる。その分、本来の業務に充てる時間が少なくなり、生産性が低下する結果となる。


職場生産性が低下する2番目の理由は、職場に対する部下の帰属意識が低下するためである。


部下によっては、席に戻った部長に対して「どちらに行っていらしたんですか?」などと、尋ねることもあるだろう。しかしながら、「うん、ちょっと」とだけ答え、席を外した理由をはっきりと説明しないリーダーも散見される。


黙って姿を消し、理由を尋ねても明確には答えない。このような上司の行動に対して、部下は不信感・不満感を抱くことになる。その結果、部下の心から「この職場で一生懸命に働こう!」という気持ちが削がれ、業務に対する “前向きな行動” が失われてしまうことになる。


職場生産性が低下する3番目の理由は、部下も『離席時のコミュニケーション行動』を怠るようになるためである。


部下は上司のまねをするという特徴がある。そのため、「黙って姿を消す部長」が統括する職場では「黙って姿を消す社員」が出始めることになる。その結果、協調性をもって勤務をするという “前向きな行動” が組織メンバーから失われ、生産性が下がる結果となる。


リーダーの率先的なコミュニケーションで部下の “前向きな行動” の喚起を

ヒトは職位が上がるほど、「自分自身に甘くなりやすい」という特徴がある。社歴が長くなった場合にも、同様の傾向が見られる。その結果、『離席時のコミュニケーション行動』という部下に要求している行動を、リーダー自身が行っていないという事態も起こるわけである。


「自分がやっていない行動」や「自分ができていない行動」をリーダーが部下に要求した場合、職場の雰囲気は悪化する。それが原因で部下から業務に対する “前向きな行動” が失われ、その結果、職場生産性が一層低下してしまうことも少なくない。


従って、部下に取らせるべきコミュニケーション行動があるのであれば、まずはリーダー自身が徹底して実践し続けることが、何よりも必要である。その結果、部下に適切なコミュニケーション行動が身に付けば、業務に対する “前向きな行動” も増えるものである。『離席時のコミュニケーション行動』を疎かにしたことによる職場生産性の低下を回避するには、何よりもリーダー自身の率先垂範がカギになるのである。