大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
共働きの夫婦が子供を健康保険の扶養扱いにする場合に、夫と妻のどちらの被扶養者になるのかについて、2021年8月1日から認定基準が一部、変更されたことをご存じだろうか。今回は、新しくなった健康保険の被扶養者認定の考え方について、特に実務上、ポイントとなる項目を整理してみよう。
夫婦の年間収入の差「1割」が分かれ目
夫婦の両方が健康保険の被保険者であり、二人で家族を扶養する状態を夫婦共同扶養という。この場合、その夫婦の子供は健康保険上、夫と妻のどちらの被扶養者になるのか。この点につき、2021年8月1日からは夫婦の年間収入の差に応じ、次のとおりとされている。
「年間収入が多いほうの親の年収額」に対する「夫婦の年間収入の差額」の割合が、
① “1割超” の場合 …『年間収入が多い親』の被扶養者とする。
② “1割以内” の場合 …『主として生計を維持する親』の被扶養者とする。
例えば、年間収入が夫は400万円、妻は450万円の夫婦がいるとする。この夫婦の場合、年間収入の差額である50万円(=妻450万円-夫400万円)は、年間収入が多い妻の年収の約11.1%(≒50 万円÷妻450万円×100)に当たる。差額が “1割超” なので上記①に該当し、子供は年間収入が多い妻の被扶養者となる。
次に、年間収入が夫は410万円、妻は450万円のケースを考えてみよう。このケースでは、年間収入の差額である40万円(=妻450万円-夫410万円)は、年間収入が多い妻の年収の約8.9%(≒40万円÷妻450万円×100)に当たる。この場合には、差額が “1 割以内” なので上記②に該当し、子供は『主として生計を維持する親』の被扶養者とされる。そのため、年間収入が多いのは妻だが、『主として生計を維持する親』が夫なのであれば、届け出ることにより子供は夫の被扶養者とされることになる。
「今後1年間の収入見込額」を夫婦で比較
ただし、夫婦の年間収入を比べる際には、大きな注意点がある。比較するのは、過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から算出した「今後1年間の収入見込額」である点である。
例えば、給与額の変動がない職場・勤務形態の場合には、過去1年間の収入をそのまま「今後1年間の収入見込額」としても問題ないであろう。しかしながら、給与額の変動がある職場・勤務形態の場合には、仮に過去の収入よりも現時点の収入が増加しているのであれば、「今後1年間の収入見込額」は、増加した現時点の収入に基づいて算出する必要がある。
過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から算出した「今後1年間の収入見込額」とは、このような考え方である。このようにして夫婦双方の「今後1年間の収入見込額」を算出・比較することにより、子供を被扶養者として認定中、真に収入が多いのは夫婦のどちらか、収入差額はいくらか等を適切に判定しようという趣旨である。
「収入差が小さい夫婦」の取り扱いが明確になった新基準
ところで、上記のような被扶養者認定の基準は、これまでの基準と何が違うのだろうか。
実は、今回の改正では、基本的な制度の仕組みは変更せず、従前基準の曖昧な点等の明確化が行われている。特に、実務上ポイントとなるのは、「子供を『主として生計を維持する親』の被扶養者とする基準」と「比較する年間収入の考え方」の2点が変更されたことである。
初めに、「子供を『主として生計を維持する親』の被扶養者とする基準」の変更である。2021年7月までの認定基準では、『主として生計を維持する親』の被扶養者とするのは、「夫婦の年間収入が同程度の場合」と決められていた。ただし、「年間収入が同程度の場合」とは、どの位の収入差までを対象とするのかが不明確であった。
そこで、2021年8月からは、この点について「1割以内」という定量的基準が設けられ、曖昧性が排除されたものである。
比較に用いる「年間収入」の考え方も統一
2番目は、「比較する年間収入の考え方」の変更である。
2021年7月までの認定基準でも、年間収入が多い親の被扶養者とするとの考えが採用されていたが、比較する年間収入は被扶養者届が提出された「前年分の年間収入」と決められていた。しかしながら、夫婦の「前年分の年間収入」の大小関係が、子供の被扶養者認定後も継続するとは限らない。
そこで、子供の被扶養者認定後における夫婦の年間収入として、より蓋然性の高い数値で比較するため、過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から算出した「今後1年間の収入見込額」を用いる基準に変更したものである。
ところで、過去・現時点・将来の収入等から「今後1年間の収入見込額」を算出するという考え方は、健康保険の被扶養者になるための収入要件である年間収入が 130 万円未満であるか等を判定する際に、すでに以前から使用されている考え方でもある。
つまり、従来の健康保険の被扶養者認定では、異なる2つの年間収入の考え方を使い分けていたことになる。そのため、今回の基準改正は、被扶養者認定に使用する年間収入の考え方の統一が図られたという側面も持ち合わせている。
2021年8月からは、上記以外にも細かな変更がいくつか行われている。社会保険事務を担当する皆さんは、明確化された基準をよく確認していただきたい。
《参考》
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