大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
厚生労働省は2022年7月29日、長時間労働が疑われる事業場に対する2021年度の監督指導結果を発表した。そこで今回は、本結果から「企業の勤怠管理の不備」に対する行政の監督指導の現状を見てみよう。

労働時間を適切に把握しないと行政指導の対象になる
今回発表されたのは、労働基準監督署が2021年4月から2022年3月までの1年間に実施した監督指導についてで、以下に該当する32,025事業場が対象とされたものである。
時間外・休日労働時間数が月に80時間超と考えられる事業場
長時間の過重労働による過労死などで労災請求が行われた事業場
監督指導の結果、全体の4分の3近くに上る23,686事業場で何らかの労働基準関係法令違反が確認され、労働基準監督署から是正勧告書の交付による行政指導が行われた。
最も多かった違反行為は「違法な時間外労働」で、法令違反が確認された事業場の46.4%に当たる10,986事業場で行われていた。2番目は「過重労働による健康障害防止措置の未実施」で、同じく25.4%に当たる6,020事業場で確認されている。
実は、「過重労働による健康障害防止措置の未実施」の中には、労働時間の状況を適切な方法で把握していないケースが含まれている。このような行為は、労働安全衛生法第66条の8の3に違反するためである。ただし、6,020事業場のうちのどの程度で労働時間の把握に関する法令違反が確認されたのかは、詳細情報が公開されていないため不明である。

最も多く行われた指導は「始業・終業時刻を確認・記録すること」
明確な法令違反とまではいえないものの、改善が望ましいと判断された事業場などに対しては、指導票の交付による行政指導が行われた。そのうち5,105事業場は労働時間の把握が不適正なために指導票の交付対象となっており、厚生労働省のガイドラインに適合した管理を実践するよう指導が行われている。
厚生労働省のガイドラインとは、同省が2017年1月20日に策定した『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』のことである。
具体的な指導内容で最も多かった事項は「労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認、記録すること」。労働時間の把握が不適正とされた5,105事業場のうち54.9%に当たる3,112事業場が、始業・終業時刻の確認及び記録を指導される結果となった。
2番目に多かった指導事項は、労働時間の把握を労働者の自己申告に委ねている場合に「必要に応じて実態調査を実施し、申告された時間を補正すること」などで、同じく36.1%に当たる2,046事業場が指導を受けている。労働時間の把握に関する労働基準監督署の具体的な指導内容は、以上の2項目で全体の約9割に達している。

ガイドラインを踏まえた労働時間の把握が必須
以上のとおり、労働時間を適切に把握しない行為は行政指導の対象とされており、労働基準監督署では厚生労働省のガイドラインを基準に監督指導を実施している。そのため、改善の必要性が確認された場合には、本ガイドラインに適合した管理を行うように要求されることになる。
従って、企業における労務管理の実務上は、本ガイドラインに記載のある『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置』の7項目を確実に実践することが大きなポイントといえよう。7項目の概要は次のとおりである。
(1)労働者ごとに日々の始業・終業時刻を確認・記録する。
(2)(1)は「使用者による直接確認」または「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録」のいずれかに基づいて行う。
(3)(1)を労働者の自己申告で行わざるを得ない場合は、ガイドラインに定められている『自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置』の全てを確実に講じる。
(4)賃金台帳に労働者ごとの労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などを適正に記入する。
(5)労働者名簿、賃金台帳に加え、出勤簿やタイムカードなどの労働時間の記録に関する書類も3年間保存する。
(6)労務管理部門の責任者は、労働時間管理上の問題点を把握し解消を図る。
(7)必要に応じて労使協議組織を活用し、労働時間管理上の問題点・解消策などを検討する。
2022年11月になると、厚生労働省による過重労働解消キャンペーンが実施された。本キャンペーンの期間中には労働基準監督署による重点的な監督指導が行われ、「不適切な労働時間管理に対する指導」も重点的に行われた。
仮に、同一条項の違反に基づく是正勧告を1年間に2回以上受けた場合には、ハローワークへの求人の申し込みが一定期間、受理されなくなるなどの事態に陥る。このようなトラブルに見舞われることのないよう、この機会に自社の労働時間管理が厚生労働省のガイドラインに準拠しているかを見直し、「安全かつ健康に働ける職場」の構築を目指していただきたい。
【参考】
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