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「令和4年6月に支払われた年金」が今までよりも少ないのはなぜ?

                      大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


年金を受け取りながら企業経営に携わる経営者の皆さんは、令和4年6月の年金の入金額が今までよりも減っていることに気付いただろうか。コロナ禍で企業経営が順風満帆とは言えない中、年金は貴重な収入源である。それにもかかわらず、なぜ年金の入金額が突然、減らされてしまったのか。今回はこの点を探ってみよう。



0.4%カットされた令和4年度の年金

令和4年6月15日は年金の支払い日だったが、年金を受け取りにながら企業経営に携わる皆さんは、前回よりも入金額が少ないことに気付いただろうか。これは、日本の年金制度には年に1回、支払額を調整する仕組みがあるが故に起こる現象である。


国民年金や厚生年金から支払われる年金は、生涯、金額が変わらないわけでない。物価や給料の水準を踏まえ、年度替わりに金額が調整されることになっている。物価や給料が上昇していれば年金額も増やし、低下していれば年金額も減らす。これにより、長期間に渡り、同等の価値の年金支払いを実現しようというわけである。


物価の変動具合は、総務省が発表する全国消費者物価指数に基づく物価変動率で判断される。また、給料の変動具合は、厚生年金の標準報酬の平均額に基づく名目手取り賃金変動率で判断されることになっている。


令和4年度の年金額を決定するに当たっては、物価変動率はマイナス0.2%、名目手取り賃金変動率はマイナス0.4%と算出された。つまり、物価・給料ともに低下しており、給料のほうがより大きく低下している状態である。この場合には、給料の変動具合に合わせて年金額を調整することが法律で定められている。そのため、令和4年度の年金額は、前年度よりも0.4%少ない金額になったのである。


「新年度分の年金」の最初の支払いは6月

「令和4年度から年金が0.4%減るのであれば、4月に入金になる年金額から変わるはずでは?」との疑問を持つ方がいるかもしれない。しかしながら、実際に4月に支払われた年金は、減っていなかったはずである。年金は「後払い」だからだ。


日本の年金は年に6回、毎偶数月に2カ月分ずつを「後払い」で支払うことを原則としている。例えば、2月分と3月分の年金は、4月に支払われるものである。


従って、令和4年4月に支払われた年金は、年度で考えれば令和3年度分の年金に該当する。そのため、金額はまだ減っていない。


令和4年度分の年金の最初の支払いは、令和4年4月分と5月分の年金を6月に支払うことで行われる。だから、6月の年金の入金額が今までとは異なるのである。


実は物価は上がっている

先ほど、「物価・給料ともに低下しており、給料のほうがより大きく低下している。だから、給料の変動具合に合わせ年金額が調整される」と説明をした。ところで、物価が低下しているという説明は、本当に正しいのだろうか。


現在、経営者の皆さんが日々の仕事や生活で物価の低下を実感することは、恐らくないであろう。それどころか、「今度は〇〇が値上がりした」という会話を耳にすることのほうが多いはずである。


総務省発表の全国消費者物価指数について、本稿執筆時点の最新データである令和4年4月分の数値を見ると、前月である3月と比較して0.4%ほど物価が上昇していることが分かる。さらに、前年同月と比べると2.5%の上昇とのことである。つまり、現在、物価は上昇基調なのである。


従って、今回の年金額の調整には、「物価は上昇中だが、年金は削られた」という側面があることになる。


「過去の数値」で「現在の年金額」が決まる

現在、物価は上昇基調であるにもかかわらず、年金額は削減される。なぜ、このような現象が起こるのだろうか。理由は、年金額の調整に使用する物価変動率は「過去の数値」だからである。


令和4年度の年金額を決定する際、判断材料の一つとして使用された物価変動率は「令和3年の平均数値」である。つまり、令和3年1月から同年 12 月の1年間について、さまざまなモノの値段の動きを日本全国で平均すると、マイナス0.2%になったというわけである。


実際、全国消費者物価指数の令和3年後半の推移をみると、物価がゆっくりと上昇基調に転じていることが分かる。ところが、年間平均ではマイナス0.2%となるため、この数値が年金額調整の判断材料に使用されたものである。


また、令和4年度の年金額を決定する際、もう一つの判断材料となった名目手取り賃金変動率も、現時点の数値ではない。平成30年度から令和2年度の給料に関するデータなどを基に決定された数値である。そのため、現時点の給料変動の実態とは一致しない面があってもおかしくない。


以上のような状況から、「物価は上昇中であるにもかかわらず、年金額は下がる」という、何とも理解しがたい状況が発生しているのである。コロナ禍で苦しむ企業経営者は少なくない。「1円でも惜しい」というのが実感であろう。年金額の減少が経営者の方々の生活に悪影響を及ぼさないことを、切に願う次第である。


《参考》

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