大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
現在、老後の年金をもらえる年齢に達した方が、社会に出て組織に所属し、働いて収入を得るケースが増えている。シニア層を新規で組織に迎え入れる場合、何か注意すべきポイントはあるだろうか。
若手社員の指示に従わない新人シニア社員
企業が行う中途採用には2つのケースが考えられる。「過去に培った特殊なスキル・経験の発揮を求められて採用に至るケース」「一般社員の補充要員として採用に至るケース」の2種類である。特に、昨今では国の年金が減額傾向にあり、なおかつ年金の支給開始年齢が引き上げられていることを踏まえ、年金をもらえる年齢になったシニア層が新たな働き口を求めるケースが増えている。それに伴い、特殊なスキル・経験を持ち合わせないシニア層が、一般社員の補充要員として企業に採用されるケースが増えているようである。
特殊なスキル・経験を持ち合わせないシニア層を一般社員の補充で組織に迎え入れる際、通常、問題となるのが「業務を遂行する知識・スキルがあるか」または「業務に必要な知識・スキルを新たに身に付ける能力があるか」という点である。例えば、コンピュータ端末を使用する業務の場合には、そのシニア層に一定以上のパソコンスキルがあるか、または新たにパソコンスキルを身に付ける能力を持ち合わせているかなどの問題が発生する。
しかしながら、シニア層を一般社員の補充で新規採用する場合には、もう一つ見落としてはならないポイントがある。それは「組織活動に馴染めないような問題を “性格” “価値観” “行動様式” の中に抱えていないか」という点である。
例えば、シニア層を新規で採用した企業の現場を見てみると、次のようなシニア社員が存在することがある。
若い先輩社員の指導に素直に従わない。
女性社員を見下すような態度をとる。
自分ができないことを他に責任転嫁する。
自分のミスを認めない。
職場で定められたルール・マナーを守れない。
以上はいずれも、そのシニア社員がこれまで所属してきた社会環境・職場環境・生活環境の影響を受けて培われた “性格” “価値観” “行動様式” などに起因する問題行動と考えられる。
例えば、現役時代に多くの若手社員を厳しく指導した経験を持つシニア社員の中には、自分が若い社員に指導されることに大きな抵抗感を覚える方がいる。そのような場合には、「若い先輩社員の指導に素直に従わない」という問題行動を起こすことがある。
また、男性シニア社員の中には、自身の娘や孫と同世代の女性社員に対して、「仕事を教えてもらう先輩である」という態度がどうしてもとれないという方もいる。このようなシニア層の場合には、「女性社員を見下すような態度をとる」という問題行動を起こすことがある。人生経験、社会経験が長いが故に起こしてしまう問題行動ともいえよう。
“本当の姿” は採用後に現れる
ただし、シニア層で新規採用に至る方が全て上記のような問題行動を起こすわけではない。素直に真面目に努力して業務に必要な知識・スキルを身に付け、新しい職場で問題行動を起こさずに活躍しているシニア社員の方も数多く存在する。従って、企業としては極力、問題行動を起こさないシニア層のみを採用したいものである。
しかしながら、採用面接の段階で問題行動を起こす可能性があるかを見抜くことは難しい。また、現役時代の経歴から問題行動を起すリスクがあるかを判断するのも、必ずしも有効とはいえない。その人の “本当の姿” は、実際に採用し組織の一員となって研修や実務がスタートしたとき、初めて現れるものである。
従って実務上は、問題行動を起すリスクのあるシニア層を「いかに採用しないか」よりも「採用してしまったとしても、いかに企業内に長く抱え込まないか」に工夫を凝らすのが現実的である。そのためには、最初の雇用契約期間を短く設定し、その期間内で適切な人材かを見極める方法がある。
契約期間中に問題行動を起すリスクがない適切な人材と判断できれば、「雇用契約を更新する」ことにより、自社で長く活躍してもらう準備を整えることができる。反対に、問題行動を起す好ましくない人材であることが判明した場合には「雇用契約を更新しない」ことにより、短期間で自社から去っていただくことが可能になる。最初から長期間の雇用契約を結び、万一、「問題行動を起すシニア層」であった場合には、契約期間中に自社を辞めてもらうことは、実務上は困難なので要注意である。
さまざまなケースを見ていると、「問題行動を起すシニア層」を採用してしまった場合、採用後のかなり早い段階でその行動が現れる傾向にある。1人でも多くの優秀なシニア層を獲得し、活躍の場を提供したいものである。
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