top of page

「企業活動にオフィス不要」は本当か 第2回

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴って在宅勤務の普及が著しく、昨今では「オフィス不要論」まで耳にするようになった。そこで前回は、Web教育が中心となる在宅勤務の人材教育について、デメリット・弱点を指摘した。第2回目となる今回は、在宅勤務を導入した場合に、オフィシャルな教育の場以外で発生する人材教育上の問題点を見てみよう。



OJT、Off-JTだけが社員教育ではない

一般的に、企業が社員に対して行う教育活動は、OJTとOff-JTの2種類に分類される。OJTとはOn the Job Trainingの略で、職場で実務を行いながら実施する教育手法であり、Off-JTとはOff the Job Trainingの略で、職場を離れて行う教育手法である。


しかしながら、社員を教育する手法は、このようなOJT、Off-JTの場に限定されるものではない。一般的には社員教育と認識されていない活動の中に、極めて重要な人材教育の役割を果たしているものが存在する。


それは「リーダーの日々の言動」である。「リーダーの日々の言動」の全ては、部下の言動に多大な影響を与えるという特徴があるからである。


部下は「リーダーの日々の言動」を見て学ぶ

例えば、社内で他の社員とすれ違う際、「お疲れさま!」と笑顔で気持ちよく挨拶をするリーダーの下では、部下も他の社員とすれ違う際に「お疲れさまです!」と笑顔で気持ちよく挨拶をする傾向が強い。このような職場は、皆が明るくとても雰囲気が良い。反対に、無言ですれ違うリーダーの下では、部下も無言ですれ違うことが多い。このような職場は、雰囲気が沈滞しやすい傾向にある。


また、職場で常に背筋をピンと伸ばして椅子に腰かけているリーダーの下では、多くの部下も同じように姿勢を正して椅子に腰かけるものである。このような職場は見ていて非常に気持ちが良く、来訪客に与える印象が極めて良い。しかしながら、猫背やふんぞり返るような姿勢で椅子に腰かけるリーダーの下では、多くの部下も同じような姿勢で椅子に腰かけてしまう。このような職場は見栄えが非常に悪く、来訪客が抱く印象も芳しくない。


皆さんも、少なからず心当たりがあるのではないだろうか。


他にも、「返事の仕方」「雑談の仕方」「昼食の取り方」「事務機器の使い方」「来客との接し方」「残業の仕方」「出勤後、仕事を開始するまでの過ごし方」等、出勤してから退勤するまでの間にリーダーが行う全ての言動は、一緒に勤務をする部下に多大な影響を与えることになる。


そして、一緒に勤務をする部下の多くが、無意識のうちにリーダーと同じ言動をとるようになるものである。つまり、リーダーが職場内で行う全ての言動は、部下が “好ましい職業人” として成長するために不可欠な「教育の役割」を果たしているわけである。


「上司の言動」から学ぶ機会を喪失する在宅勤務

組織内でこのような現象が発生する理由は、「部下は上司のマネをする」という特性が存在することに由来する。そのため、日々、好ましい言動がとれるリーダーの下では、その言動を見て無意識のうちに学び、模倣する部下が次々と現れることになる。


このような部下による模倣現象は、リーダーと部下とが同じ空間を共有しているからこそ発生するものである。同じ職場に出勤するからこそOJTやOff-JT以外の時間が、リーダーの言動によるメンバーへの教育効果を発揮する時間となるわけである。


しかしながら、リーダーと部下が同じ空間を共有しておらず、Webミーティング等以外では顔を合わせてコミュニケーションをとる機会が希薄な在宅勤務では、このような教育機能が発揮されない。これが在宅勤務という勤務スタイルに内在する、人材教育上の大きなウィークポイントである。


リーダーの日々の言動は「組織風土」を形成する

「リーダーの日々の言動」は、部下の言動に多大な影響を与える。このことは換言すれば、リーダーの言動は「部下の習慣」を変えることを意味する。そして、多くの「部下の習慣」が変化すれば、その習慣は「組織の風土」となる。つまり、リーダーの日々の好ましい言動は、ひいては好ましい組織風土・企業文化の醸成に結び付くわけである。


組織風土・企業文化を醸成するという視点で考えた場合には、上司と部下が同一の空間を共有しない在宅勤務は、職場に出勤して働く通常勤務を完全には代替できない。


好ましい組織風土・企業文化は、企業が持続的成長を遂げる上で不可欠な要素である。「在宅でも同等の仕事ができる」「在宅勤務はコスト削減効果が大きい」などの短期的・顕在的メリットばかりに着目することなく、組織活動におけるリーダーの機能と役割をいま一度、確認していただきたい。

bottom of page