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なぜ、アルバイト従業員は不適切な動画を投稿したのか

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


今から3年ほど前、アルバイト従業員による不適切な動画投稿が社会問題化したことがあった。「バイトテロ」などと称されたこのような行為の影響で、店舗が休業に追い込まれるケースもすくなかった。なぜ、このような問題が発生したのだろうか。



繰り返されるアルバイト従業員の不祥事

実は、今から9年ほど前の2013年頃にも、同様のトラブルが社会問題化したことがあった。大手飲食店やコンビニエンスストアで働くアルバイト従業員が店内で不適切な行為を行い、その様子を撮影してSNS上に投稿したのである。


結果的に多くの店舗が休業、廃業に追い込まれ、不適切な投稿をした従業員に対して損害賠償を求めるケースまで発生した。数年の時を経て、再び飲食店や小売店で同様の問題行動が発生したのである。


ただし、2013年当時と2019年頃では、大きく異なる点が一つあった。それは、2013年当時は多くが静止画像の投稿であったのに対し、2019年頃は動画が投稿されている点である。そのため、不適切な行動の一部始終がよりリアルに社会に拡散される結果を招いたものである。


“社会に出た自覚” がない若者たち

なぜ、このような事態が繰り返されるのだろうか。大きな原因の一つは、アルバイト従業員本人に “社会に出た自覚” が欠如していることであろう。


一般的に、アルバイトとは社会経験の未熟な学生などの若者が、社会に出て「職業生活」を営む行為である。従って、学生でありながら “社会人” という立場をも併せ持つことになるのが、アルバイト従業員の特徴の一つである。


“社会人” の行動には大きな責任が伴う。この点はアルバイト従業員であっても変わりがない。そのため、学生同士であれば笑い話で済むような悪ふざけも、“社会人” のとった行動として見た場合には、“悪質極まりない、決して許されない行為” となる。そこには、倫理上はもちろんのこと、司法上の責任さえ問われることがある大きな社会的責任が存在するのである。


従って、アルバイトをする若者には、「学生生活」や「私生活」と「職業生活」を明確に区別して行動することが求められる。つまり、本来論で言えば、アルバイトとは決して “学生気分” で行ってはいけない社会活動なのである。


それにもかかわらず、アルバイトをする若者がこの点を正しく認識していないと、「学生生活」や「私生活」と「職業生活」の区別がつかないまま、仕事に就くことになる。社会に出た自覚がなく、学校とアルバイトの区別がついていないのだから、アルバイト中に友達同士で行うような悪ふざけに及んでしまうことにもなる。その結果、バイトテロと称されるような “幼稚な不祥事” が行われるわけである。


果たして、この問題を解決するにはどうしたらよいのだろうか。


アルバイト従業員に対する「ビジネスマインド」の教育を

従業員教育には “知識” 教育と “意識” 教育の2種類がある。“知識” 教育とは「仕事に必要な “知識” や “スキル” 」を身に付けるための教育である。これに対して、“意識” 教育とは「仕事に対する “好ましい考え方” 」を身に付けるための教育である。


たとえば、スーパーやコンビニエンスストア等の小売業であれば、「商品の種類を教える」「レジの打ち方を教える」「清掃の仕方を教える」などは、“知識” 教育に当たる。これに対して、「社会人に求められる “責任感” を教える」「“コンプライアンス” を教える」「職場での “協調性” を教える」などは、“意識” 教育に該当する。


社会人に必要な「仕事に対する “好ましい考え方” 」を「ビジネスマインド」などというが、社会経験の未熟な若者には学ばなければならない「ビジネスマインド」が数多く存在する。そのため、アルバイト生活を営もうとする若者に対しては「ビジネスマインド」の教育、つまり “意識” 教育が必要不可欠になるわけである。


しかしながら、アルバイト従業員に対する現実の教育は、“知識” 教育偏重の傾向が強いようである。つまり、「レジの打ち方」は教えるが、「社会人に求められる “責任感” 」は十分には教えられていないのである。そのため、若者が「仕事に対する “好ましい考え方” 」を身に付ける前に、現場投入されてしまうことになる。


「レジは打てるけれど、考え方は子供のまま」というような人材を職場に配置するのだから、問題が起きても不思議ではない。もちろん、だからといって、アルバイト従業員の不適切な行動が容認されるものではない。問題行動を起こした本人たちが、極めて厳しく責められるべきであることは言うまでもない。


アルバイト従業員に対しては採用時にはもちろんのこと、採用後も継続的に「ビジネスマインド」を指導する “意識” 教育を実施する必要がある。若者の吸収力は大きく、適応力も高い。もしも、アルバイトの現場に「ビジネスマインド」の教育が定着すれば、アルバイト学生が思いもよらぬ強力な戦力に化けるかもしれない。

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