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リーダーが部下に「アドバイス」をする法

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


人はコミュニケーションのとり方ひとつで「動く人材」にも「動かない人材」にも変わるものである。あなたは社員を動かせるコミュニケーション術を身に付けているだろうか。



やる気を “削ぐ” アドバイス、やる気を “生む” アドバイス

社員に業務上のアドバイスをするケースを考えてみる。このようなときでもわずかなコミュニケーション手法の違いで、社員がアドバイスを行動に移すこともあれば、全く行動に反映されないこともある。


たとえば、客先への訪問時刻に遅れそうになった社員がいるとする。このようなとき、皆さんはその社員に対してどのようなアドバイスをするだろうか。多くのリーダーはついつい「もっと時間に余裕を持って行動しなければダメじゃないか!」と言いがちである。気持ちは理解できるのだが、このようなコミュニケーションのとり方で、果たしてその社員の行動は次から改善されるものだろうか。


相手にアドバイスを与え、考え方や行動を改善させるには、『肯定的な表現』を活用することが効果的である。一般的に相手の問題点が目に付くと、「○○するのはよくない」「○○はダメだ」などの表現で指摘をしがちである。この「よくない」「ダメだ」はどちらも『否定的な表現』である。しかしながら、相手の問題点を改善させたいと思うのであれば、この「よくない」「ダメだ」という『否定的な表現』を「○○するとよい」という『肯定的な表現』に変換してから使用するとよい。


先ほどのケースの「もっと時間に余裕を持って行動しなければダメじゃないか」は『否定的な表現』である。このようなときに「もっと時間に余裕を持って行動したほうがいいぞ」などと言うのが『肯定的な表現』に変換するということである。


人を動かす “肯定表現”

文字にするとわずかな違いでしかないのだが、実際にその状況に直面したとき、口に出して言われた際の心への響き方には、非常に大きな違いがある。『否定的な表現』で言われた相手は、指摘を受け入れ “がたい” 気持ちになりやすく、『肯定的な表現』で言われた相手は、指摘を受け入れ “やすい” 気持ちになる傾向がある。


『否定的な表現』でアドバイスをされると、どんなに指摘されたことが正しいと理屈では理解できても、感情的に納得できないという状況に陥りやすくなる。指摘をした相手に反感を持つことさえ少なくない。このように『否定的な表現』は人の心を閉ざしてしまう傾向にある。人間は “理屈” ではなく “感情” で動くものだからである。これに対して、『肯定的な表現』でアドバイスを受けた場合には、感情的に指摘を受け入れやすく、「次は気をつけよう!」と自らの意思で思うことが大いに期待できる。


『肯定的な表現』が受け入れられやすい最大の理由は、相手を責めるような言い回しになりにくいことにある。「余裕を持って行動しなければダメじゃないか」は相手を責めているように聞こえる表現だが、「余裕を持って行動したほうがいいぞ」は、必ずしも責めているようには聞こえない。それどころか、「○○したほうが、あなたにとって得ですよ」というニュアンスが含まれた表現になっている。


行動が変わらなければ「アドバイス」ではない

このコミュニケーション手法を駆使するリーダーは、頭に『否定的な表現』が思い浮かんでも、決してすぐには口に出さない。必ず「今、思っていることを『肯定的な表現』に変換するとどうなるか。相手の行動を変えるためには、最初に思い浮かんだ『否定的な表現』と『肯定的な表現』のどちらを使用するのが効果的か」を考えてから、言葉を発するものである。


アドバイスをする最大の目的は、相手の行動や考え方を変えることにある。アドバイスをしても相手の行動や考え方が変わらないのであれば、それはアドバイスをしたことにならない。もちろん、企業の存続が危ぶまれるような大失敗をした場合には対応は異なるが、日常業務で発生する問題点などに対してアドバイスをする際には、『肯定的な表現』の活用は非常に効果的なコミュニケーション手法である。


わずか一つのアドバイスにも「人を動かせるアドバイス」もあれば「人が動かなくなるアドバイス」も存在する。『肯定的な表現』の活用は人を動かせるリーダーになるために、ぜひ、身に付けたいコミュニケーションスキルである。

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