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組織リーダーに求められる「教育能力」のポイントとは

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


部下にいくら仕事を教えてもできるようにならない場合、部下自身の能力・努力の問題と捉えるリーダーは少なくない。しかしながら、本当にそうであろうか。他に原因が存在することはないのだろうか。今回は、組織リーダーに求められる「教育能力」について考えてみよう。



「部下が仕事をできるようにならない」と嘆くリーダー

「ウチの部下はいくら仕事を教えても、なかなかできるようにならない」。このように、部下のできの悪さを嘆く組織リーダーの声を聞くことは多い。皆さんにも、少なからず心当たりがあるのではないだろうか。


ところで、仕事を教えたのにもかかわらず、部下がその仕事をできるようにならない場合、果たして誰に問題があるのだろうか。もちろん、多くのリーダーは前述のとおり、部下自身に問題がると考えるであろう。部下の「資質が低い」「努力が足りない」などを問題視するのではないだろうか。


確かに、仕事をできるようにならない原因を部下自身が抱えるケースがないわけではない。しかしながら、得てして組織リーダーが見落としがちなポイントがある。それは、部下に仕事を教えたのにできるようにならないのは、多くの場合、教えるリーダーの側に原因が存在するという事実である。


「仕事を教える」とは「仕事をできるようにする」こと

果たして、「仕事を教える」とはどういうことであろうか。いろいろな考え方があるが、組織を率いるリーダーに不可欠なのは、「仕事を教える」とは「仕事をできるようにする」ことであるという考え方である。


換言すれば、部下が仕事をできるようにならなければ、それはそもそも「仕事を教えたことにはならない」のである。


従って、知識を教える場合には、リーダーが知っていることを部下に話しただけでは、教えたことにはならない。部下が知識を理解でき、さらにその知識を使えるレベルにまで引き上げられて初めて “教えた” ことになる。


技術を教えるのであれば、その技術を部下に見せただけでは教えたことにはならない。部下がその技術を身に付け、さらに技術を使いこなせるようになって初めて “教えた” といえるわけである。


そのため、本稿冒頭にある「ウチの部下はいくら仕事を教えても、なかなかできるようにならない」とのリーダーの発言は、組織リーダーとしては極めて恥ずかしい発言と言わざるを得ない。「私には教育能力が欠如しています」と吐露しているようにしか聞こえないからである。


『仕事の教え方』を教えない企業研修

リーダーが部下に仕事を教えることができないのは、必ずしもリーダー本人の責任とは言い切れない側面がある。リーダーが所属する組織自体が、管理・監督者層を対象に「部下への『仕事の教え方』を習得する」という教育カリキュラムを持たないケースが少なくないからである。


わが国の多くの組織体には、「知っていることを話せば教育になる」という潜在意識が根強い。その点を鑑みれば、『仕事の教え方』という教育カリキュラムが存在しないのも、無理からぬことかもしれない。


しかしながら、リーダーが『仕事の教え方』を身に付けていない場合、部下に対してはリーダー自身が教えられた方法で仕事を教えることが多い。つまり、リーダー自身の勘と経験に依存した、場当たり的かつ属人的な教育に陥ることになる。


このような状況は、企業としての統一的な「若年社員を成長させる術(すべ)」を持たないことを意味する。そのため、企業の成長はもとより、企業存続の大きな足かせにもなりかねない状態といえよう。


効果的な教育で『自己効力感』『自己重要感』の醸成を

厚生労働省が実施した平成30年若年者雇用実態調査の結果を見ると、企業の「教育訓練・能力開発のあり方」に対する若年社員の満足度が、非常に低い傾向にあることが分かる。


「仕事の内容・やりがい」の満足度D.I.※は若年正社員が50.9、若年非正規社員が55.0であり、いずれも高値であるのに対し、「教育訓練・能力開発のあり方」の満足度D.I.は若年正社員が13.8、若年非正規社員が8.0であり、非常に低い値を示している。この数値は、正規・非正規のどちらの若年社員についても、「賃金」の満足度に次いで2番目に低い値である。このような現状は、当然、若年社員の早期離職の一因となるであろう。

※満足度D.I.…現在の職場での満足度について、「満足」又は「やや満足」と回答した労働者の割合から「不満」又は「やや不満」と回答した労働者の割合を差し引いた値


効果的な教育は部下に『達成感』を与える。『達成感』が深まれば、部下の心には「自分はできるんだ」という『自己効力感』、「自分はこの組織で重要な存在である」という『自己重要感』が醸成される。『自己効力感』『自己重要感』を持つ若年社員が、企業を離職することは決して多くはない。


若年社員の早期離職を回避するには、早期に『自己効力感』『自己重要感』を醸成することが大切である。そのためには、リーダー一人ひとりの教育能力はもとより、企業としての社員教育に対する姿勢を今一度、振り返る必要がありそうである。


《参考》

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