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官僚制組織は何が問題なのか

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


国や地方自治体など、行政機関の対応の是非が取り沙汰されることは少なくない。ところで、行政機関に代表される『官僚制組織』は、何か構造上の問題点を抱えているのだろうか。



行き過ぎた「官僚制」から生じる逆機能

本来、『官僚制組織』は集団を合理的に管理できるというメリットを持っている。組織の構成員が規則や手続きに従って行動することにより、最も能率的で合理的に機能する集団として形成されるのが『官僚制組織』の特徴であり、ドイツの社会学者であるマックス・ウェーバーが “優れた組織形態” として提唱したことでも知られている。しかしながら、「官僚制」が行き過ぎると、組織内にさまざまな “ひずみ” を生み出してしまうという側面も持っている。


たとえば、『官僚制組織』には「規則に固執し過ぎ、規則の遵守が過剰になる」という問題がある。本来、規則は一定の目的を達成するための “手段” であるはずなのだが、規則を制定した理由・目的から逸脱して「規則を守ること」自体に注力してしまう。その結果、『官僚制組織』では「規則に定められていない事項は決して行わない」などの姿勢が環境変化への柔軟な対応を阻害してしまうことになる。また、規則に固執しすぎた結果、「顧客ニーズに対応できない」という現象も起こりがちである。


また、『官僚制組織』には「自身や内部の関係者に対しては、規則の解釈が甘くなる」という問題もある。前述のとおり『官僚制組織』では対外的には規則の絶対遵守が貫かれるのだが、身内に対しては必ずしも規則の遵守は絶対とはいえず、規則の解釈を歪曲するなどの行為が平然と行われる。その結果、『官僚制組織』は “過剰な自己保身” や “内部擁護” に走りやすい傾向にある。


さらには、『官僚制組織』には「セクショナリズムが過剰になる」という問題もある。セクショナリズムが過剰になると、全体の利益よりも自身が所属するセクションの利益が最優先となる。つまり、組織の “全体最適” を考えず、自身が所属するセクションのみの “部分最適” を一番に考えるようになる。また、自分の担当以外の仕事にはかかわろうとしないなどの行動も顕著になる。その結果、『官僚制組織』では「セクション間の情報流通が滞る」「他のセクションがどのような業務を担当しているかを理解していない」「複数のセクションに関係する案件が “たらい回し” にされる」「責任の所在が不明確になる」などの現象が発生しがちである。


民間企業に見られる『大企業病』

他にも、「秘密主義」「前例主義」「保守的」「細かすぎる規則」「煩雑過ぎる手続き」「組織の硬直化」「変革への抵抗」など、行き過ぎた『官僚制組織』がもたらす弊害は極めて多種多様である。このような弊害を “官僚制の逆機能” という。“官僚制の逆機能” がアキレス腱となり、『官僚制組織』は機能不全に陥りやすい傾向にある。


ただし、このような官僚制の弊害は必ずしも行政機関に限って見られる現象ではない。民間企業であっても同様の問題が発生することがある。


民間企業の場合には『大企業病』と言われる。『大企業病』とは組織の拡大に伴って企業体質が “非効率” に変化する現象のことであり、その名のとおり主に大手企業が陥りがちな現象である。たとえば、「セクショナリズムが過剰になる」「事なかれ主義に陥る」「縦割り主義に陥る」「不要な仕事を作り出す」などは、典型的な『大企業病』の症状といえよう。


行政機関は元より、民間企業であっても組織の肥大化に伴い、能率的で合理的であったはずの組織運営が、非能率的、非合理的になることがある。昨今、わが国を代表する大手企業の不祥事が後を絶たないが、続発する不祥事の一因として『大企業病』があるという見方も存在する。自身がマネジメントする組織構造の疲弊には、常に気を配りたいものである。

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